読み始めてまず最初に浮かんだ感想が「ありふれている」でした。兄と妹の禁断の恋、職場の上司との不倫などという展開に「また、これか」と正直、嫌になりました。しかし読み進めていくと物語に自分の心が力強く、引っ張られてることに気がつきました。確かにありふれている。ワクワクするような物語の展開はない。だけど、だけど自分の心が動かされてしまっていました。やはりプロは凄い、いやこの作家はなんなんだ?という気持ちに駆られ、この作品を読みきりました。お金をケチって買わず、本屋で二ヶ月という時間をかけて立ち読みするという本屋にとって迷惑なことをしましたが、二ヶ月間立ち読みをさせてしまうほど力のある作品だと思います。この作品を読んでから村山さんのことが気になり、NHKのトップランナーに出演された時は思わずビデオに録画しました。その時、印象に残った彼女の言葉があります。確かこんな言葉でした「新しい物語とは多分死ぬまで言われなくても、決して特殊な人の物語ではなく普通の悩みを持っている人、普通の悩みしか持っていないが為に人にもなかなか辛いと認めてもらえない人、そういう人に読んでもらえたらいいと思っています」すばる新人賞を受賞された時は選考委員に「凡庸」とも言われたそうですが、その「凡庸さ」で人の心を動かす村山由佳という作家はすごいと思います。僕はこの作品をみなさんにおすすめします。実際に手にとって読んでみてください。くれぐれもその時は本屋で二ヶ月立ち読みはしないように。
この物語に登場する家族一人一人が、何かしらのコンプレックス、<BR>悩みを抱えて生きている。<P>『人間』という生き物は、悩み、傷つきながら生きていくもの。<P>そんなことを教えられた気がした。<BR>そして、『悩む』ことで、人間本来の負の感情を浮き彫りにさせる。<P>”この世界で、悩みや心の傷を持たずに生きている人なんていない。”<P>著者は、”とある家族”を題材にして、これらのことを時には痛く、<BR>時には哀しく表現し、一つの作品として仕上げていると思う。<P>『直木賞受賞』云々に関わらず、純粋に一読の価値はある。
1人は実の妹を激しく愛し続ける男。<BR>1人は他人の男ばかりを愛してしまう女。<BR>1人は妻子のある実の兄を愛し続け一人身を貫く女。<BR>1人は家に帰宅することが憂鬱である男。<BR>1人は幼馴染である親友の彼氏を好きでいつづける女。<BR>1人は陰鬱な戦争体験により良き妻をうまく愛せなかった男。<BR>彼らはそれぞれ大なり小なり傷を持っている。<P>それを受け入れて前へ進む者、過去を引きずり続ける者。<BR>彼らは決して幸せではないがそれぞれの道を歩んでいく...。<BR>読後は感動と悲しみが入り混じった複雑な感情に囚われた。<BR>決して誰もが感動できる物語ではないが、<BR>読んだ後きっと何かを残してくれる、美しくも激しい愛の物語。