読んでいる人間をはっとさせるような、身近な感覚の追体験による日常の再構築を可能にする…というより、こちらに日常の再認識を迫りさえする、情景描写は相変わらず健在。 <P> その日常も、時代背景を現代の日本に置きながら、旅路という日常からの離脱(もしくは剥離)をテーマとし、舞台を悠久の時間を湛えるそれ故に変化も最小限しか許されていない奈良に設定することで、二重の意味での非日常の中での限定された日常であって、常に裏切りの契機をはらんでいる。 <P> 物語本体の進行と、章ごとに挿入される小さなエピソードの調和も、道すがら見つけた目を惹く小石を拾って味わうささやかな幸せのように、こちらの期待を喚起するものがある。 <P> ストーリー自体も、二転三転する真相と余韻を残す幕引きで、結末に漠とした不満を感じないでもないが、全体として時間の感覚が引き延ばされているような濃密な、それでいて感情の速度も感じさせてくれる、期待通りのものだったように思う。 <P> まあ、期待の上を行ってくれた方が嬉しいけれど。
とりあえず、この作者の本は全部読むようにしています。<BR>多才な作家ですから、好きになれる作品もあれば、今ひとつ好きになれないものもありますが、<BR>この作品は、「これこれ、こういうのが読みたかったんだよなあ」と思わずほおずりしたくなるほど好きな作品でした。<P>メロドラマ?<BR>ですねえ。<P>なんだか、「きっと、こうなるにちがいない。」という読者の予想を<BR>裏切らずに、物語が進んでいきます。<BR>それはそれで読書の楽しみですから、私は好きでした。<P>筋が決まり切ったルートをたどる分だけ、<BR>人物描写も結構紋切り型で、必要最小限の言葉しか使っていない分だけ、<BR>風景の描写が心に残ります。<BR>何度も、何度も繰り返し語られる夢の風景。<P>この作者の言葉の力を堪能させてくれるところです。<P>奈良に行きたくなりました。
奈良を舞台として、物語は進行していきます。<BR>きっと、ほとんど全ての人が、必ず一回は修学旅行で行ったことがあるのではないでしょうか。<BR>京都とは違う、奈良の神秘的で、けれど懐かしい感じのする風土とこの物語はとてもマッチしています。<BR>お話自体もなかなかよかったと思います。数日間の奈良の旅を、私も一緒に感じていられるようでした。<P>読み終わると、奈良に行きたくてしょうがなくなってしまいますよ。