むさぼり読みました。久しぶりに、夢中になれる本に出会いました。読後も余韻が残って、しばらくこの本の空気に浸っていました。
自動車部品の工場に勤務する杉田平介の妻・直子と、小5の娘・藻奈実がバス転落事故に遭い、藻奈実だけが一命を取り留める。しかし、藻奈実の意識が回復すると、その人格は完全に直子のものとなっている。平介と、藻奈実の姿をした直子との生活が始まり、様々な迂余曲折を経ながらも、最後はハッピーエンドになるかと思ったが…。 この作品の最大のポイントは、直子が下したある重大な決断であるのだが、それがどんなもので、いつ下されたのかは、最後まで読まないとわからないようになっている。また、それは平介のある決意に呼応したものであり、平介がそれを決意したことには、事故を起こしたバス運転手が関係していると言った、著者の巧みな構成力は、とてもすばらしい。<BR>この作品を読み終えたのは電車の中だったのだが、不覚にも涙がこぼれそうになったほど、感動的な結末である。直子の決断は、少ない選択肢の中の最善のものだったのだろうが、ある意味とても残酷な結末を招いてしまったとも言える。その後のことも考えるとやるせない気持ちになるが、結末を知った後、再び最初から読み直しても新たに感動出来る、すばらしい作品である。
幸福な夫婦と一人娘の一家族。母娘がバス転落の事故に遭遇、母は死亡、娘はその母にかばわれるかたちで奇跡的に生還して始まるこのドラマ。 死を認めたくない!妻に生きていて欲しい! 母に生きていて欲しい!父と娘の潜在意識が娘の中に妻と母を潜ませてしまう。 娘としての社会生活、妻としての秘密の家庭生活。高校生になった娘のボーイフレンドに只ならぬ嫉妬をする父親の心のせつなさが痛ましい。 愛する家族の死を受け入れる苦しさがミステリー仕立てになっていて 読み止められぬ一冊であった。