自分に文学的素養があるとは考えていませんが、「走れメロス」を読んだときの、畳み掛けるような文章が今でも印象に残っている。特に、無二の友を、裏切ることを少しでも考えたこと、そして友に帰るとき、言葉を介さないでも、やり取りされた感情を思うと、涙は止まらなかった。是非とも、中高生諸君によんでもらいたい。いい本にあってほしい。僕にはこれが最高とは言わないまでも、珠玉の作品です。
太宰治の書いた小説の中でも、傑作を集めた本としてのお得度はある。<BR>しかし、太宰の作品はすでに多くの文庫になっており、今更太宰の作品を集めて本にするか?と思ったり・・・。
太宰治の作品をまとめて読みたい人に向いていると思います。他社の文庫だと掲載されている作品の数が少ないのに比べてこの文春文庫では、総ページが550ページを超えるほど盛りだくさんです。<P>掲載順に作品を挙げると、「斜陽」「人間失格」「ダス・ゲマイネ」「満願」「富嶽百景」「葉桜と魔笛」「駆込み訴え」「走れメロス」「トカトントン」「ヴィヨンの妻」「桜桃」です。<P>全十一作品に加え、詳細な年譜が巻末に添えられ、言葉の意味についても随所に解説がなされており、文字もわりと大きめなので読み進めていく内に集中力が切れるということがありません。<P>もちろん、太宰の文章構成力のなせる技が一番大きいのですが、チェーホフやヴィヨンの生きた時代を欄外に小さな解説記事のようにして盛込むことにより、一層内容の理解を深めることができる仕掛けになっていて、編集者の工夫の跡が感じられます。