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花のあと ( 藤沢 周平 )

昭和50年代に「オール読物」あるいは「小説宝石」などで引っ張りだこになっていた藤沢周平の時代ものを集めたもので、8編からなっている。<P>定番といってよい、藤沢周平の描く江戸時代の市井の人々の物語であるが、それぞれの主人公達が、強い意思を持って生きている様子が印象的だ。<P>特に「冬の日」という作品が良い。幼い時に清次郎は主家の娘であった8歳の、「おいし」の送り迎えの用をしていた。あるとき、ちんぴらに襲われ、清次郎は殴られ血を流しながらもおいしを守った。それから、幾星霜、おいしと清次郎にはそれぞれ、過酷な運命が待っていた。<P>おいしは生家が没落し、飲み屋の女となって、地回りの男に付きまとわれている。清次郎は、故あって人を傷つけて、小伝馬町の牢に送られたりして、今小さな古着屋をやっている。<P>この二人がひょんなことから再会し、それぞれの過去の傷を埋め会うように、共に暮らそうと思うように至るまでのストーリーだ。<P>人の世のはかなさ、哀しさというものを下地にした、しっとりとしたストーリー展開は相変わらず見事である。藤沢周平の時代小説の「情緒」の溢れた名品といえる。<P>その他、表題作の「花のあと」は、剣の道に励んだ武家の娘が、どうしても、試合でかなわなかった一人の男にほのかな慕情を抱き、権謀の罠にはまって非業の死を遂げたその思いの人の敵討を遂げる話だ。<P>片思いでしかなかった男の無念を晴らそうとする打算ではない無垢な思いと、その決断の激しさは、正に武家の娘ならではということだが、そういった女心を題材とする着眼だけでも、この物!語の成功は約束されたともいえるだろう。

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