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溺レる ( 川上 弘美 )

主人公は全編女性。しかも、みんな「だめ」な女性。「だめ」というのはこれといって明確な目標もなくなんとなくふわふわと生きている、ということ。なんとなく男とつきあってなんとなく寝る。そして、気がついたら捨てられていたりする。登場する女性たちはそれぞれなんとなく満たされない気持ちを抱えながらも、その正体をつかみかねてじたばたしてみたり酒を飲んだり男と寝たりする。何か大切なようなものがあっても、それがはたしてどのように大切なのかがよく分からない。なんだかよく分からないでいるうちに事態はすでに次の段階に進み、彼女たちは置いていかれてしまっている。川上弘美の性描写はふわふわほわほわとしている。しかし、エロティックでないわけではない。直接的な描写がないかわりに「いたくする」とか「自在にする」とか遠まわしな表現が逆にエロイ。それにひらがなが多いので子供っぽい感じがしてよけいにエロイ。他の作品ではあまりこういう描写がないので読んで驚いたけど、こういうのを書いても川上弘美っぽさは失われずやっぱり上手いなあと読むものを唸らせる。

8編の短編からなる作品集。どちらかといえば明るいとも言える文体であるのに、内容は陰惨(ドロドロ、というよりは「プチ陰惨」)であり、娯楽として読むには適さない。しかし、作者の文芸作家としての力量は十分に発揮されており、作品はおおむね上質である。<P>本書の中では、私は「亀が鳴く」にもっとも強い印象を持った。理不尽な人の理不尽な言動に意に反して譲歩し、被虐の立場に甘んじざるを得ない性格の弱さと哀しさに、私は強く共感できる。決して自虐を楽しんでいるではない。作者の描くとおり、現在の危うい安定を守るための挺身行為である。これが家庭内暴力や暴君の温床となるのであるが、これに敢然と立ち向かう気力・体力もなく、また犠牲も大きいことを理解してしまうと、自己のプライド!放棄してでも「今」を守らざるを得ない、その心理は、ここでの主題ではないけれども、私としては実に真に迫って了解できた。我慢強いはずの亀が要所要所で「きゅう」と鳴く声が、そうした生活のみじめさを増幅して表現している。<P>これに対して「神虫」はちょっと私の許容範囲を逸脱している。私はこういった節度を超えた作品を好まない。青銅の虫の扱いも雑に思える。<P>総じて本書の作品の登場人物は、社会の辺境にあって社会から何ら期待されずに生きている人々であるといえる。毎日を仕事に、雑用に追いまくられている立場からみたとき、彼ら・彼女らをみじめとみるか、責任がない生活に多少うらやましさを感じるか、そのあたりにも個人差が出そうである(私はどちらかというと後者だろうか)。

アイヨクに溺レ、逃避行を続ける二人を描いた表題作をはじめ、二人で徳利を何本も空けて、夜の街をふらふらと歩き回る「さやさや」、変化のない日常を描いた「亀が鳴く」、淡々とSM関係を生きる「可哀相」など、抑制されたトーンでどこか妖しい男女関係を描き出す短篇8編を収録。<P>川上氏の作品は、いつも不思議に何かがおかしいのです。読んでいるうちに感情が右斜め前にズレてしまうような、言葉で言い表せない雰囲気を持っています。氏の他の作品に見られる明るめの不思議さではなく、この作品集に収録されているものは、全体として何となく薄昏く、それでいてどこか生の真実に到達しているような迫力があります。若干ワンパターンなのが気になりますが、この奇妙な座標軸のズレは川上氏独特のものでち?ょう。楽しめる短篇集です。

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