まず、サブタイトルの「あなたを宗教はどう助けてくれるのか」だけをみてこの本を判断しないで下さい。ただたんに宗教を比較し、論じ、紹介するだけのカタログ的な本では決してありません。著者の考察は広い範囲に及び、国や地域に宗教が果たした歴史的、文化的、あるいは経済的な役割についての記述は目から鱗が落ちる思いです。また各宗教についてもこの手の本にありがちな難解でまわりくどい説明ではなく、簡潔で分かりやすく本質をつかみ易い絶好の宗教入門書ともなっています。数あるイスラム教国に何故先進国が存在しないのか、お酒の席でつい友人に熱く語ってしまう事うけあいです。
宗教について書かせればその面白さにおいてこの人の右に出るものはいないように思う。その面白さは該博な知識に裏づけられた多面的な切り口にあり、また過つことなく対象の最も興味深い面を鮮明に見せてくれる手際のよさにある。このことは宗教を述べる時だけでなく政治社会軍事についても同様で、惜しむらくは文章がひどく乱れる時があるとはいえ、どの著作も意表をつく指摘に満ちており、まず退屈することはない。恐らく、この人は、おろかな思いこみや幼稚な通説からはるかに隔たったところに立っているのである。この著書においてもそのような指摘は無数にあり、例えば、仏教とキリスト教を比較して、その理想とする場所が正反対のところにあるという指摘。仏教で至高の境地とされる涅槃は苦に満ちた生!の輪廻から脱することだが、キリスト教から見ればこれは最後の審判で罪人に課せられる永遠の死にほかならない云々。とにかく、この本を読めば、正月に神社に参り法事に僧を呼びクリスマスのプレゼントを贈ってさらに大安仏滅を気にすることが、世界の宗教常識からしていかに奇妙キテレツな事態であるかがよく分かる。それがどうしたと言われればそれまでだが、私はもうそろそろ日本人も世界の常識を知っていいころだと思うのである。
小室先生は天才である。突拍子のない飛躍や、話題の転換が気になる読者もいるかもしれないが、出てくる知識の正確さは、この人は本当に専門はなんなのか、疑わさせられる、私はたまたま漢文の教師をしているが、小室先生の中国文学の知識には遠く及ばない者である、洞察力、解析力、は言うに及ばないであろう。<P>ソビエト帝国の崩壊以来の愛読者より