いつも思うのです。どの本を読んでも、著者の目のつけどころの凄さ、すばらしさには、毎度ほんとうに目を見晴らされます。だから、あえて言いたい。文章にもうちょっと、色というか、芸がほしいなと。なんだか、どの本も論文調で、論旨がわかってしまうと、二読三読には残念ながら耐えられない。この殻を破れば、著者は評論家として間違いなく歴史に名を残すと思うのですが。<BR>この本でも、「フード小説」「ホテル小説」「貧乏小説」など、まったく新しい視点から現代文学を論じています。もう目からウロコが落ちまくりという感じ。紹介するのがもったいないので、読んでいただくのがいちばんです。(だから斎藤美奈子ファンとしては文章にもうちょっと芸がほしいのです)
あとがきで斎藤氏ご本人も驚いているように、この本は何と「妊娠小説」以来十年ぶりの直球の文芸評論。もうそれだけでわくわくするでしょ。小説はまず一気に読み、そして好きなところに戻って「ゆっくり読む」「何回も読む」ことを旨とする斎藤氏の、文学への愛がひしひしと伝わる幸せな一冊。まさに一気にゆっくり何回も読みたい本。ていうか、読まされます、爆笑のうちに。 で実は奥が深い。小説の中で音楽はどう書かれてきたか、とか、貧乏小説のたどり着く崇高な境地とか、今までこんなこと言った人いた?てな奥の深さ。笑いながら読んでてすみません、と頭さげちゃうほど、優れものの評論でもあるわけです。 それにしても嬉しいのは、斎藤氏は私と結構同じページにしおりをはさんでいること。金井美恵子「恋愛太平記」の雛祭りの料理やトルコ石色のブラウスのシーンは言うまでもなく、田中康夫「なんとなく、クリスタル」の“幼稚園児のお着替えみたい”にニットを脱がせられるシーンや、松本侑子「巨食症の明けない夜明け」のデパ地下の宝石みたいなケーキのシーンまで同じように愛玩していたとはびっくり! 一方で「失楽園」にしおりがはさんでなかった理由もこの本でわかったし。 更に嬉しいのは、いつもは隠しテーマみたいになっている金井美恵子への愛が溢れていること。美奈子アンド美恵子ファンとしては、えーい、いっそのことまるごと一冊金井美恵子読みましょうよ! と叫びたくなります。 しかし「妊娠小説」同様、実はこの本の白眉も辻仁成を扱ったページなんだよね。もう、その場で二読三読。ああ、お腹の皮が破れそう。