この作品も『Y』と同様に、「あのとき、ああしていれば」という誰もが思う後悔について、書かれています。<P>佐藤正午の「かっこつけ(キザ)文体」にはまれるかどうかがすべて。はまるひとはずっぽりはまるでしょう。私はそうでした。あと、もうひとつ。完全に男性、それも、私のような、「優柔不断、かつ、かっこつけ」男性向けのおはなしです。<P>作中に出てくるアブジンスキーというカクテルが飲みたくて仕方なくなり、バーで飲んでみました。調子にのって5杯。もちろん、前後不覚状態におちいりました。<P>読み終わったあと、男性は、自分の隣にいる女性(奥さんとか彼女とか)のことを少しだけ疑ってしまうかもしれません。
主人公の男と少し似た経験がある。<P>携帯メールでとっていた連絡がつかなくなった。僕は腹がたって、そのままにしておいた。数ヶ月後に他の女とデートした後、急に彼女を思い出し電話をした。いつのまにか携帯は着信拒否になっていた。その時初めて気が付いたのだが、僕は彼女の事を何も知らなかった。でも、僕から電話をしたのは初めてだし、彼女の家がどこかもわからない。苗字を忘れてしまった事もあった。<P>彼が彼女を探す動機は、合理的な説明が欲しいからだと思う。男はそういうものでしょ。「俺よりいい男が出来たんだろ?」「俺のこと、好きじゃなかったんだろ?」そう言われれば納得も出来るさ。<P>最後に用意された真相にたどり着くまでに、読者は一緒になって迷走する。女性が読んだらイライラ!るかもしれないが、僕は胸がチクチク、頭はクラクラになってこの物語を読み終えた。<BR>昔、青年だった男性にも是非読んでもらいたい恋愛小説です。<P>僕の事件の真相?まだずっと先でもかまわないや。
りんごを買いに行った彼女が消えた。<P>主人公の大事な人が失踪するということで、すわ松本清張バリの展開か、もっと違う事件に巻き込まれたのか、という思わせぶりの冒頭で期待をもたせる。ところが、どうも主人公の行動が振るわない。消えたガールフレンドをなにがなんでも、と積極的に探す様子でもない。ガールフレンドの実姉からなじられ、簡単に手をひいてしまう。仕事を放り出せないというのはサラリーマンとしてはある意味当然だろうが、小説の登場人物としてはどうだろう?<P>優柔不断な部分があったり、(ガールフレンドに対しても、読者に対しても)隠し事をしていたり、一部共感を覚える部分もあったが、反発を覚える部分もあり最後まで感情移入ができなかった。一方で、実際に自分が同じような状におかれた場合、主人公のように行動するのではないか、と思ったのも事実。主人公に対して反発を覚えたのは、実は自分も同じようなことをしてしまうのではないか、と感じたからかもしれない。