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放送禁止歌 ( 森 達也 )

「おもしろいところに目をつけるなー」というのが最初の印象でした。非常に興味深く且つ飽きさせませんし一気に読めてしまいます。時間的制約の中でよく取材されていると思います。これを読んでまず放送禁止歌なるものの存在の曖昧さに閉口すると同時に、それを扱う(というか扱わない)メディア全体の無関心さに怒りをおぼえました。そして放送禁止歌を取り巻く自己保身の果てに築き上げられた実体のないタブーの中身にもやりきれなさを感じました。しかし、そこから作者の思考は単なる怒りや、嘆きというものを乗り越えてその向こう側にある何かを模索し始めます。彼のスタンスにはいつもある種の曖昧さがついて回りますが、読み進むうちに是か非かなどという論争自体が実は偏見と思考停止の産物なのだという決定的な事実を突きつけられている事に気づきます。自らに問いつづけること、考え続けることに意味があるのだという思想は一見古典的哲学のようであるけれども私にはそこにこそ人間の本質が隠されているように思えてなりません。その曖昧さゆえに少々歯がゆく感じる人もいるのかもしれませんが、国全体が一つの方向に大きくなびいているこの時代だからこそ意思を持って立場を保留するという行為が逆に新鮮に感じられるのかも知れません。

笑うつもりだった。<P>キンタの大冒険やシンボルロック<BR>その他が列挙されているであろう本だと思った。<BR>音楽好き。歴史好きの私としては流行歌の歴史を垣間見ながらゲハゲハ笑うつもりだった。<P>が<P>プロローグは 岡林の『手紙』<P>いやあな予感がした。<P>見事に的中。<P>俺は笑えなくなる。<P>『世界革命宣言』『ヨイトマケの唄』<P>きわめつけは『竹田の子守唄』だった。<P>どうやら俺はそういう事を考えねばならないらしい。<BR>神様が俺にそういうことについて考えさせようと導いているようだ。<P>うわ 今 その手の本 読みたくないのだが と思いつつ<BR>一気に読んだ。<P>なぎら健壱の台詞が光る。<BR>「結局 言葉に罪はないんだよね。使う人の意識の問題なんですよ。」<P>そう そのとおりだ、と声高に叫びたい。<P>が それでも読者の反応を恐れながら言葉を慎重に選び<BR>それでもなお 糾弾される自分がいる。<P>糾弾が恐ろしいから自主規制?<BR>ふざけんな おまえらメディアだろが<BR>人一倍美味しい仕事してたくさん金もらってるんだろが<BR>それくらい覚悟しろよと<P>ついこのあいだまでは言えた。<P>が<P>やはり怖いものは怖い。<P>知人がものを書かなくなった。<BR>その理由と言うのが「読んでくれてる人と交流を持っちゃうと書けなくなるんですよ<BR>あ これ書くと あの人 こう思っちゃうかもしれない<BR>あ この表現は彼には気にかかるかもしれない ってね それで書くのをやめました」<P>彼が書くのをやめた理由は決してそれだけではないだろうがわかる気はする。<P>そしてもひとつ重い問題がおれにのしかかってきた。<BR>「差別される側に、再び差別のヒエラルキーが再生産される場合がある」<P>うん よくわかる。<P>まさしくそうなのだ。<P>阿諛追従 ここ数ヶ月私が一番嫌いな言葉である。<P>どうも本というのは意思を持って私を追いかけてきている気がする。<P>ああ やだなあ。<P>俺 もうちこっと 明るい本が読みたい。

「放送禁止歌」というキーワードで本書を手に取ったが、それよりももっと深いものであった。作者は放送禁止歌から、現在の「差別」の根底に流れているものに視点を当てている。それは、「自分」で考え「自分」で行動することが我々に不足していることが、浮き彫りにされている。<P>今後は彼らの音楽を聴いて、本書の意味をもう一度確認したいと思った。星は5つです。

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