おたく、摂食障害、ダイエット、少年愛趣味…一見ばらばらに存在するかのような個々の現象。それらを、「コミュニケーション不全症候群」という名の「現代病」を用いて、実はすべての根は一緒なのだと主張する著者の洞察は、現代日本社会を理解するための新たな視座を与えてくれる。そして、もうひとつの重要な論点は、この「病気」の要因が個人の問題に還元されるものではなく、現代社会の構造そのものにあるのだということだ。この作品がエッセイという枠を超えて、アカデミックな立場の方からも大きな評価を得ている理由はそこにある。あなたの心の問題の原因を「あなた」自身に求める「一般向け心理学書」とは違った、心の問題の捉え方を提示してくれる一冊でしょう。
約5年前、50歳でこの本に出会った時、私のターニングポイントとなりました。以来4度目の読了です。読むたびに「学び」があります。私は大学生時代、いわゆる「ドロップアウト」しました。以来「コミュニケーション不全」(現実に背を向けている)ですが、この本はこの病から治るきっかけを与えてくれました。この本の素晴らしさは、(1)自分が病気だということを教えてくれること(自分の病気は自分では診断しにくい)(2)この病気は、オタクや「ドロップアウト」といった精神構造を持っている者でも、持っているままで治ると告げていること(私の場合、「精神構造が治らない限り病気の治癒はない」と思い込んでいたふしがある)、です。なんとなく「生きにくい」と思っておられる人にお勧めの本です。
物理的にも精神的にも、人間が個体として生息するスペースが減ってきている。その状態に、「他者」の存在に関心を持たない、という形で現代人は適応しているが、それはさまざまな問題を引き起こしている、という筆者の問題提起には、納得させられるものがあります。ですが、そのあとは、筆者が環境への過剰適応の最たる例としてあげる、「おたく」と「ダイエット症候群」の細かな症例の羅列に終始し、具体的な解決策が今一つ不明瞭な印象を受けました。枝葉末節の議論ばかりで、論旨も氏の他の作品に比べてルースです。過剰適応を分析するのも良いですが、その一歩手前でとどまっている大多数の人々の分析、またその人たちに対する療法も提示してほしかったと思います。氏の評論文には、勢いがあって良いものが多いのですが、氏の思い入れが強すぎたせいか、この作品は今一つです。