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| 駅前旅館に泊まるローカル線の旅
(
大穂 耕一郎
)
駅前旅館に泊まったことが何度かある。駅前旅館は民宿と違う、ビジネスホテルと違う、当然しゃれたシティホテルやペンションとも違う、簡単にいえば、昔ながらの「商人宿」と言えばいいだろうか。寅さん映画によく出てくる宿を思い出してもらえば分かりやすいだろうか。<P>内容によると、ほとんどが兼業で、旦那は勤めに出ておかみさんがひとりできりもみしている場合が多いらしい。立地も人口数万人以下の地方都市以下の、小さな駅近くのメイン道路や商店街の一角にこじんまりと佇んでいる。そういえば、今まで気にも留めなかったが、僕が毎日乗り降りしている駅のはずれにも、(いかにも、これこそは)、とっいた駅前旅館があった。<P>食事も家庭で日頃食べているものを出している。メニューは旅館の家族!食べているものと同じものであることが多いらしい。実際、僕の少ない経験では、夕食がカレーライスの場合もあったし、明らかに近所のスーパーで買ってきたとわかるようなお惣菜のコロッケということもあった。安い料金で、食事にこだわらず宿泊するだけなら、駅に近いという簡便性も考えると、出張のビジネスマンや学生の長期合宿、工事関係者の宿舎として契約し、使われることが多い。<P>さて、この作品は、鉄道マニアである著者の長年にわたる駅前旅館との関わりと、それを愛してやまない気持ちが込められた労作である。電車を追いかけて、全国の駅前旅館に足を運び、後継者不足やビジネスホテルやシティホテルの進出によって廃業に追い込まれていく実態を生々しくルポしている。<P>つげ義春の作品を読んでい!ると、こうした駅前旅館がよく出てくる。昔の作品には、『伊豆の踊り子』に出てきたような、いわゆる木賃宿というものも出てくる。つげは好んでこうした宿に泊まる旅を続けていたというが、今読み返しても、単に金がないから泊まるということではなく、ある種の粋と風情を感じる。<P>著者も書いているが、ホテルのような無機的なシステムではなく、人と人とのコミュニケーションで成り立っているこうした駅前旅館は、今後益々希少な存在となっていくだろう。
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