誰かとコミュニケーションをする際に、当然のように行っている筈の「聴く」という行為を、「他人を受け入れる」という行為としてあらためて考えている本です。<P>また、「他人を受け入れること」行為を職業としている人達 - 医者、看護婦、カウンセラー、教師……etc,etc - にとって、日常化している「他人を受け入れること」「ホスピタリティ」とどうつきあうか、それによって生じるストレス・問題をどうするべきなのか、といった問題に真っ向から取り組んでいます。<P>哲学にあえて「臨床」の名を冠し、あくまで現場(職場というだけでなく、介護や家族の問題もふくむホスピタリティなすべての現場)の人間にとっての「受け入れること」を突き詰めた内容は、専門的な人間だけではなくすべての人に感銘を与えるものだと思います。<P>「臨床哲学」という未知の領域を定義するという目的もあってか、1章は多少難解な表現で綴られていますが、2章以降はむしろ読みやすい内容になっています。安売りされる「ホスピタリティ」や「聴く」という行為の本質に一石を投じる一冊です。
やさしい手触りに満ちた言葉で語られるのは、いま/ここにある「痛み」をケアするための思考、ひととひととの「間」にあるべき充足した関係性のための思考。つまり、体や心に「痛み」を抱えているひとや、人間関係に悩んでいるひとを目の前にしたとき、テツガクのことばはなにができるのか?っていうこと。<P>言葉は優しく/易しいけれどあいまいじゃなくて、厳密な思考のなかでも手触りや聴覚、視覚っていう身体感覚をおっことさないところに、書き手の誠実さを感じます。<BR>こんな世の中だけど、こんな世の中だからこそ、もう一度まじめに「テツガク」してみよう、っていう気持ちにさせられました。<P>そして、ページにちりばめられた植田正治さんの写真のステキなこと! ひととひとの「間」、またはひとが存在する「空間」をリアルに感じさせてくれるすばらしい写真。こんなふうに濃密で風通しのよい「間/あいだ/空間」に生きるために、「テツガクすること」はあるのかもしれない。そんなふうに思ってしまいました。