本書は、国鉄改革三人組と言われ、1980年代最大の政治的課題であった国鉄改革の、掛け値なしに真ん中にいた一人である、JR東海の葛西氏の、国鉄入社以来の自伝的ノンフィクションである。<P>官僚的な古い企業の人事に通じた人ならすぐに分かると思うが、葛西氏自身は、経理畑(監督官庁=大蔵省・運輸省(当時)との折衝に当たる重要セクション)と人事畑(政治的に強力な労組と向かい合う重要セクション。これらのセクションは、たとえば都銀(笑)でもエリートコースとされていますね。)を歴任した国鉄の本流、エリート中のエリートと言える経歴を歩んでおり、国鉄の墜落と復活を目の当たりに出来る立場にいた人物である。<P>本書は、著者入社以来、どのようなメカニズムで、どのように国鉄が利害関係者に食いつぶされ、どのように組織的堕落が進んだかを詳述する。この場合の利害関係者とは、労組、内部官僚組織、政治家などなど。そんなマクロの話のみならず、労働組合とのミクロなせめぎ合いや財務省との折衝、国鉄改革時における政治家とのコンタクトなど、豊富な逸話が本書の読み応えと迫力をいや増す。そのマクロを見通す怜悧な視点と、ミクロな事態にも全力を尽くす能吏、そして情熱あふれる改革者としての著者の闘いが、凡人たる私などには余りあるほどに語られている。<P>国鉄改革がどのようなメカニズムで進んだのか、その中でどのような矛盾が生じたのか。国鉄改革三人組の中でも、マクロとミクロを論理的に語れる理論肌の著者だからこそ書ける、類稀なノンフィクションだと思う。自分の会社は大企業病に侵されているのではないか、と思う人にとって、会社の外からのマクロ的な視点と、個別事例におけるミクロな視点の両方を与えてくれる、実に優れた本である。若干、著者の政治的な思惑も含まれている本ではあるが、大組織における改革者たらんとする人の必読の書であると思う。
日本最大級の企業を蝕む、安定志向、日和見主義は、民間を含む他の多くの大企業に通じるものと思う。一歩一歩確実に組織を崩壊に導く経営陣、労組、社員の真に迫る描写は、他人事とは思えず、常に自分の会社を思い浮かべながら読み進めた。国鉄という特殊な企業ならではの、政治家・官僚・労組等との複雑な関係も興味深いが、やはり改革に望む少数派が大企業病に侵された組織と戦う姿は感動的であると共に、読む人に勇気と希望を与えてくれることと思う。経済学の理論もベースにした視点で、現在の道路公団の民営化などのヒントもたくさん与えてくれる。
旧国鉄の実態と、「民営化万歳」の声にかき消されそうになっている問題点を、「国鉄改革三羽烏」の一人、現JR東海社長が実直に描いた本。<BR> 国鉄分割・民営化の歴史を検証する本として、また一つの企業を再生するまでの努力を描いた本としても有益な本だと思います。ただ、筆者が労務畑が長かったため、労務的視点にやや偏っている印象はぬぐえません。<P> しかし、内部で実際に改革に携わった人の証言は非常に貴重。文章もうまく、すぐに読めます。