「○○の心理学」などのタイトルのついたような、他の対象領域を「心理学」で味付けしたような本には、少しいかがわしいものが多いように思います。しかし、本書はそうではありません。編者はハーバード大学のメディカルスクールの心理学の先生で、執筆陣も、経済学者や現場の実践家です。<P> 投資や相場の心理学の本と言えば、結局、心理的なプレッシャー(バイアス)から逃れることは難しいので、素人は直接の投資をやめて投資信託を購入するか、少なくともテクニカル分析を駆使しましょう、といった安直な結論が見え見えのものが多いようです。本書の監訳者もテクニカル・アナリストとして知られ、投資信託に務める人物(林康史氏)ですから、その手の本かと思いつつ手にしたところ、冒頭から、プロに対!する辛口のコメントに満ちているし、テクニカル分析礼賛も出てこないというので、意外な気もしました。<P> 投資行動に心理学の理論を適用する最初の包括的な論考11篇が集められたのが本書の特徴のようです。収録されたものの中には、投資の心得を述べたハウ・ツーのエッセイもあり、なぜ、売りが難しいのかを精神分析で腑分けしてみせる論考もあり、逆張り・順張りの戦略が有効かどうかを心理学の立場からの裏付けを述べるだけでなく、実際に儲かるのかを検証する、といったバラエティに富んだ本です。<P> 私の周辺にも、相場と心理学について述べた本を読みたいと思っている人は多くいますが、分厚い本の端から端までを読むのかと思うと、手にするのがためらわれるのも事実です。実は、私も、そういう読者の一です。そういう読者にとって、この本は、難しい論考を飛ばして読んでも、いっこうにさしつかえないところがうれしい。また、この監訳者の翻訳について総じて言えることですが、訳文はこなれていて、読みやすいものとなつています。相場に関係ない人で、ニュース等で目にする相場の動き方に興味のある人にとっても、相場を少しでも理解する手助けになると思います。
この本は「投資家の過剰反応」「リスクに対する感情」「なぜ売りが難しいのか」「銘柄選択の心理学」・・・など11の章で構成されていて、それぞれの章が独立した形になっていて読みやすいです。中でも私が何度も読み返して考えたいものは「なぜ売りが難しいのか」。投資家が売却に際して陥る問題はもともと非常に心理的なもので、本の中では、「買いがゲームの始まり(=ポジティブなもの)であるのに対して、売りは終了で結果の確定(=ネガティブなもの)。売りは値段が上がっていようが下がっていようが、明らかにストレスをともなう」と表現されています。こうした状況で正しい投資判断を行うためには、買う前に売り価格、シナリオ、投資期間という売り目標を設定しておくこと、現在の値段で購入したいかを考えることが有効ということを学びましたが、実践で売却するときは、なかなか本に書かれていることを思いめぐらすことができない現状・・・。やっぱり心理的なものに支配されているんだな、ということを痛感せずにはいられません。何度も読み直して、自分のものにしようと思います。
ファイナンスセオリーをやっていると、結論はだいたい「楽に儲ける方法はない」か「no free lunch」であって、むなしいことこの上ない。お勉強した挙句、趣味のお勉強か、たかだかセールストークやプレゼンでしか使えないのは非常に悲しい。<P>これに対して、行動ファイナンス系の理論は、まがりなりにもお金儲けのための学問である。人の逆を行き、群集心理を利用して、より儲けるというのは、実際に市場に関わる人々の間でもっとも賞賛されるパターンであり、それを市場参加者の行動のモデル化に基づいて理論化している点は、学術的ファイナンス業界の進化といえるかもしれない。