自分にとって、読む価値があると感じたのは、セス・クラーマンについて述べている、第13章中の『売りたがっている投資家』の節だけでした。この節には、セス・クラーマンが、経済外的理由で株式を売りたがっている投資家の存在を重視していたことが述べてあるのですが、この部分に、自分は非常に大きなインスピレーションを感じました。この節を読めただけでも、この本を買うのに、高いお金を払った価値があると自分は思っています。<P>ただ、上記以外の本の内容は、ややpoorと言わざるおえません。本書の初めの部分も「価値に対して割安な株式を買う」という概念さえ理解していれば、特に読む必要ないと思います。また著者は、会社の事業の見方に精通しておらず、高収益の要因であるとか、そうことについて決議論を一般化し過ぎています。企業戦略論関係の良書(たとえば、『競争の戦略(ポーター著)』)を読んだ後、本書を読むと、著者の事業の見方がいかに脆弱であるかがわかると思います。<P>第13章の『売りたがっている投資家』の節だけきちんと読み、後は流し読み程度で、良いのではないかと思います。
著者が本書で推奨しているバリュー投資は、本流の現代投資理論をやや突き放したスタイルをとります。「バランスシートの分析に時間をかける」、「成長がもたらす価値を信用しない」、「CAPMとは異なったリスク管理を行う」、などの方法論が分かりやすく説明してあります。敢えて気になった点を挙げるとすれば、1)「バリュー・ポートフォリオがほとんど全ての期間と市場にわたって平均リターンを上回る好成績を上げている」といいながら、その裏付けは「多くの研究結果によれば」のほぼ一言で済まされている(反対の研究結果に対する正面切った反論はない)、2)バリューの源泉として「再調達コスト」という概念を持ち出しているが、説明があまり実務的とはいえない、3)本書の後半は、(よくある)有名な投資家達の分類とその成功例の紹介にあてられており、目新しさがない、などです。ただ、バリュー投資の文字通り「入門」としては、よくまとまっていますし、「ITバブル崩壊後にバリュー投資がいかに報われたか」などといった、後出しジャンケン的武勇伝が極力抑えられているのも、良心的に感じました。
財務諸表を読んだり、丁寧な調査を自分で行うことを厭わないタイプの人なら読んでも損はなし。<P>個人的には、手法説明のページよりもⅢ部のバリュー投資家を何人か紹介しているページでの投資過程の分析にインスピレーションを感じる。<P>このページだけでも買いと評価。国内で出版される退屈な投資本を何冊か売って、これを買っても、しばらくは本棚に眠っていないことだけは保証。<P>買い推奨。