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| 「ひきこもり」救出マニュアル
(
斎藤 環
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本書は,「ひきこもり」への精神医療における対応の理論や実践で目覚しい業績を挙げてきた著者による,「ひきこもり」者の関係者向けの対応マニュアルである。そこには,すぐれて臨床的な配慮が行き届いており,著者が一流の臨床家,実践家であることを物語っている。<BR> 標準化された診断基準にべったりの精神科医は,ひきこもり概念を「精神医学的に正当に位置付けられない」といって嫌う向きがあるけれども,その概念の臨床的有用性は疑問を差し挟む余地はない。治療的介入のSpecificityは診断のそれよりも高くない。強迫的傾向の強い症例にも衝動的行動に走りやすい傾向を示す症例にも,ひきこもりが前景に出ているならばそれへの介入は有効なものである。ひきこもりは臨床場面できわめて有用な概念であり,さまざまな治療的介入を導く糸口になっていることを本書は明示している。特に,患者の家庭内暴力に曝された家族が家から避難して,外部の機関に援助を求める際の危機管理の記述は,本書の白眉というべき見事さである。<BR> 著者には,この他に精神病理学の気鋭の理論家という別の顔もあるのだが,本書には一流の臨床家としての著者の面目躍如たるものがある。著者は,別の著作で,この社会は理念や思想を伝えても,言葉どおりに伝わらないので,やむなくマニュアルの形で伝えるのだという意味のことを述べているが,評者に言わせれば,このマニュアルにこそ(もちろんそれが優れたものであるがゆえにであるが),著者の思想や臨床的態度がよく表現されていると感じられるのである。
「ひきこもり」救出マニュアル
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| 全国に100万人いるといわれている「ひきこもり」。ひきこもりとは、長い間自宅にこもって社会参加をしない状態をいう。皮肉にも、新潟県の監禁事件や佐賀県在住の少年が引き起こしたバスジャック事件で、一気にその名を知らしめることとなった。 <p> 思春期・青年期の精神病理が専門で、「ひきこもり」治療に詳しい著者が、具体的な事例をもとに、Q&A方式で、ひきこもりから抜け出す手だてを示している。タイトルだけを見ると、何となく軽い印象を受けるが、中味は非常に重く、そして真剣だ。本書の読者対象は、当事者や家族、支援する専門家などの関係者。「可能な限り『専門家に相談してください』という表現を用いない」ようにした、と著者自身が述べていることからも、実用性を重視していることがわかる。 <p> 本書は、ひきこもりの定義に始まり、原因や不登校との関連、治療の目安や選択基準、家族の接し方、社会的サポートなど、事細かに質問項目を設定している。特に印象深いのが、インターネットとの関連性だ。インターネットをやったらますます引きこもってしまうのではないか、という問いかけに対し、著者は、直接話すのが苦手な子でもメールを通してコミュニケーションが取れることや社会との接点を回復する窓口として大きな意義を持っている、と肯定している。豊かな専門知識と、ひきこもっている人たちへの温かいまなざしが、単なるマニュアルではない1冊に仕上げている。(町場キリコ) |
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