斎藤一、というとどうも個人的にダークな必殺仕事人(笑)のイメージをもっているせいか、本作の斎藤一は意外なほど非常にクリアでした。<P>人との関わりあいがこざっぱりしすぎているせいか、文章が淡々としているせいか、とにかく全体的にあまり昏さを感じさせません。<BR>動のせなかを頑張って生きていても、汚さや泥臭さはなし。<P>「寡黙」と書かれていても存外よく喋るし、わりと社交的?です。「汚れた」生き方だと自嘲しながらも、それを自戒して必要以上に悩んでいるあたりが、綺麗なのかもしれません。<BR>純粋、というのとは微妙にニュアンスが違うような気もしますが、割り切ろうと思いつつ割り切れないあたりは、純粋なんでしょう。<P>サブタイトルに「最後の剣客」とありますが、密偵とか剣客というシャープな雰囲気は稀薄ですので、人間的な部分を重視したい斎藤一ファンにはよいのかも???<P>印象的だったのは、会津との縁。<BR>会津の人々との接触が、斎藤一のノスタルジーやストイックな部分を刺激し、憧憬にも似たものを抱かせるあたりが、かなり丁寧に描かれています。<P>山川浩や佐川官兵衛、白虎隊の少年たちとの触れ合い、会津の女性たちとの甘い出会いが、「二つの時代」の後年における斎藤一の生き方に深く関わっていくのです。<P>前年部のウエイトが少ないのが難ですが、生涯で得た関わりを大事に、律儀な生き方を選ぶ斎藤一というのも、また一興。
本屋の一角にも新選組のコーナーができ始めた。これもブームに乗っかって書かれたのかな、という気がしないでもない。<P> 新選組三番隊長の斎藤一の生涯を、池田屋事件から西南戦争後まで駆け足で描いている。「謎多き」剣客なのはそのとおりだし、土方や沖田に比べると出版物も多くない彼だが、今までに出ているものを超える内容ではないので、斎藤一のファンには物足りなさが残るだろう。<P> ただ本書には、斎藤氏の生涯でも謎の多い斗南時代の妻、やそが登場する。あの川路大警視とも新選組時代からすれ違っていた設定になっており、明治になってからの経歴を知る人にはちょっとした伏線が読みとれる。