多くの人が刀に対してもっている常識・迷信・盲信をさながらミステリーの謎解きのごとく覆してくれます。実証は一次文献・データをあたり、そこから論理によって丁寧になされます。<P>私自身は刀は最強の武器だという間違った常識を持っていたので、刀の柄・目釘の部分には構造的な欠陥があるというのは非常に驚きでした。<P>しかし、慎重な論理展開のせいか繰り返しが多く、冗長に感じる部分もありましが、今まで常識だと思っていたことが覆されるといういい意味での知的興奮があじわえる本でした。
刀は戦国時代の戦場の武器として使われたのか,という疑問から始まり,刀は戦場でどんな役割を果たしていたのかを説明する本.まず,戦国時代の合戦で軍勢が刀で白兵戦をくりひろげたり,武将が馬上で刀を振るうようなことは極めて稀で,弓や鉄砲などの飛び道具を使った遠距離戦と槍を使った中距離戦が合戦の主流でだった(遠距離戦と中距離戦で合戦の趨勢は決まることがほとんどだった)ことが明らかにされます.白兵戦をくりひろげる戦国時代のイメージは江戸の平和期に作られたとのこと.江戸時代の時代認識や価値観は現代の我々にいまだ大きな影響を与えていますが,これもそのひとつなのでしょう.そして,刀は戦場での武器の役割より,儀典的,象徴的,宗教的役割の方が大きかったことが説明されま!.実効能力のある武器としては認識されていなかったにもかかわらず,土地以外に効果ある恩賞として「名刀」という価値観が「創り出された」ことなどは興味深かった.さらに,合戦で唯一刀を利用した局面として「首取り」を紹介.そして,首取りが行われる理由として当時の実績主義を説明し,どのように戦国武将が実績(手がら)を認識,分類,評価していたかを非常に具体的に紹介しています.昨今日本でも取り入れ始められている実力・実績主義との対比をした部分などもあり読ませる内容.