少子化が叫ばれて久しい。その理由の一つに日本における子育ての難しさをあげる人も多いだろう。子育てが難しいのは「行政が悪い」からというのはたやすいが、われわれにも何かできないだろうか。<P> 著者は臨床心理士としての問題意識から出発して国際都市として有名なカナダのトロントで研究生活を送った。この本はトロントでの子育て支援のソーシャルワークの考え方を紹介している。ソーシャルワークについて私は今まで「弱者の相談に乗ってアドバイスをする」といったくらいのイメージしか持っていなかったが、この本を読むと、もっと積極的に行政・地域の人々との間に立ってさまざまな調整をする重要な役割を担っていることがわかる。<P> この本の特筆すべき点の一つは、単なる紹介にとどまっていいことであろう。トロントから学べるものを日本の実情に合わせて批判的に咀嚼してさまざまな提案を行っている。もう一つの特徴は、個人の取り組みばかりでなく社会としての取り組みに多くのページを割いていることであろう。たとえば、ボランティアで子育てにかかわりたいという人は多いだろう。そういう善意をまとめ上げ、行政と交渉したり、寄付を募ったりといった活動に踏み込んでの提案をしている。<BR> 子育てする個人ばかりでなく、専門家にも子育てを支援しようとするボランティアにもヒントが満載されており、一読ののち、必要なときに読み返す価値がある本だと思う。
筆者はトロント大学の客員研究員として、トロントにおける子育て支援について研究してきている。また、実際に筆者は2児の母であり、母としてトロントの子育て支援サービスにもかかわっている。「英語のわからない二人の子どもを連れ、一人で子育てしながら研究生活をするという状況」で、「日本よりずっと生活しやすい毎日」であったという。<P>このように述べる筆者による、トロントの子育て支援環境と日本の子育て支援環境とを比較し、今後の日本においてどのような環境作りが求められるかが分かり易く書かれている。