21世紀どんな生き方をしても、とくに女性にとって、心地よいかといえば<BR>必ずしもそうではないと思えるのです。<BR>そしてこれからも期待できないのではないでしょうか。しかし、半世紀以上も前に、自由にそしてしなやかに生きた女性がいたと思うだけで、わくわくします。<P>才能豊かだったからだけではない、なにか思い切りの良さとか、自分にとって何が大切なことかとか、的確な判断で目の前にあるチャンスを逃すことなくグローバルに生きた女性にあこがれます。ただし本当の孤独をのりこえてこそ、とも。<BR>異文化の中で自分を見失わずに生きることの強さにあこがれます。
原智恵子は、幼いころから単身でヨーロッパに渡り、<BR>研鑚を積んだ経験から、勝気で大陸的な性格を持ちあわせていました。<BR>当時の日本人女性として求められた奥ゆかしさ、控えめな性格でないことを理由<BR>に(あるいは、あるひとりの男性の嫉妬を理由に)、日本の音楽界からは次第に<BR>「抹殺されていく」運命にありました。<P>(どんなに、ヨーロッパ(パリ)で、輝かしい功績をおさめようが、素晴らしいプレイ<BR>ヤーであろうが)<BR>同時期に、比較対照としての存在として現れたのが、「安川加寿子」でした。<BR>「原智恵子」を知らなくても、「安川加寿子」なら大方の人が知っている、<BR>という事実こそ、当時のそして今日まで続く、「音楽業界の闇」を物語っているのです。<P>本の後半。<P>愛する二人の息子と離れ、20歳年上のチェリスト「ガスパール・カサド」と再婚し、<BR>彼が亡くなるまでのわずか8年間の充実した音楽家生活、そして彼と過ごした思い出<BR>深いフィレンチェを出、日本に戻って、ひとり老人施設で生活し、亡くなるまでの様子。<BR>その克明な描写に心打たれました。<P>「芸術」への志を曲げずに生きようとした、ひとりの音楽家の女性の半生を、戦中戦後の<BR>文化の発展過程を背景に知ることの出来る、重みのある本でした。