「オフシーズン」、「老人と犬」等で有名なジャック ケッチャムの最高傑作。ここには人間の暗部の全てがある。<P> 題材自体は最近ではよくみられるものなのだが、ヒロインの愛らしさや、そこに描かれるありきたりの、そしてどこか懐かしさを感じさせる美しい風景、反面、まるで地獄に落ちていくような気分にさせる構成、凄惨なリアルさ、途中で止める事の出来ないテンポは他の作品と完全に一線を画し、まさに『凄い』としか言い様がない。また、ヒトというものを底の底まで見据えた深い心理描写は、読者を主人公である『僕』と無理矢理一体化してしまう。<P> この作品を読んだものは皆一様に『不快な物語』だという。しかしながら、皆、一様に次のケッチャム作品を買い求める。何故か?それは彼の扱う恐怖が現実に存在するものであり、また、目を背け、なかった事にしてはいけない問題であるということを皆知っているからであろう。是非に一読をお勧めする逸品である。<P> なお、この作品は1998年のSTUDIO VOICE八月号(Vol.272)のケッチャムのインタビューとあわせて読む事をお勧めする。
物語の語り手で今は成人しているディビッドが、少年期のある事件について回想するという形式をとっている。<BR>その彼が自らを振り返って語る、好奇心と残酷さを併せ持つ子供の心理は、誰もが多かれ少なかれ思い至ることだろう。<P>国や時代背景が違っていても、そうした人間の未成熟の心には普遍性がある。蝶の羽をむしりとるかのようなひとの心の闇の部分は、善悪では割り切れない人間性の一部であると思う。<BR>サイコキラーの犯罪物より、本書のほうがよほど甘美で残酷である。
実際、読後感は最悪。にもかかわらずケッチャム作品を読んでしまうのは、その否応なく引き付ける筆圧の強さゆえか。ともかく、小説を読んで多幸感を味わいたいという向きにはお勧めできない傑作。