中学生時代に読んだ、ネール首相の「父が子に語る世界史」を思い出しながら一気に読み終えました。私の記憶にある学校の歴史は、現代に住む我々にはどうでもよいような中世や江戸時代のことばかり教えられ、明治以降の歴史の功罪は一切教えられてきませんでした。本書のここ100年の我が国の歴史の記載の豊かさに驚き、読み進むにつれ祖父・父の世代の試行錯誤と努力の延長上に現在の我々がいるということが素直に分かりました。この部分が様々な反響をもたらしていますが、バランスのとれた記載の様に思えました。 次に、本を一貫して流れる我が国の歴史と国民への愛情を読み取りました。 大人の読み物としてもよくできたものと思います。 望むらくは、大人用のものには、批判される方々が引用するものも含めて引用文献一覧をつけてくれるとうれしい。 大人、学生を問わず多くの方が読むに価する本と思いました。
教科書としても、また大人の読み物としても、たいへん良いデキだと思いました。内容的に「過去の歴史に共感を持たせるような記述」になっていると感じます。私は高校の地歴科の教師をしておりますが、この教科書で学習したならば、歴史を好きになって高校に上がってくる生徒も増えるのではないでしょうか。<P>他社の教科書と比較してみると(といっても私が見たのは前回検定通過本ですが)、その「良さ」というか、生徒へのサービスはゆきとどいていることがわかります。内容が「面白い」んですよね。歴史をひとつのストーリーとして展開しようとする工夫が見られます。<P>情報量も多く、要点は抑えてあるので、受験には有利なのではないでしょうか。ただ、「中学生には難しいのでは」と感じる方もいるかもしれません。<P>はじめの頃は、著者の一方的な歴史解釈や志向などが強調されすぎているのではないか、という危惧を持っておりましたが、実際に市販本を手に取ってみますと、そんなことはありませんでした。検定を通すことによってバランスが取れたものとなり、これならば中学生にも自信をもって勧められます。<P>歴史そのものは科学ではありません。「科学的なアプローチ」が尊ばれているだけです。とくに教科書は「いかに生徒に読ませるか」「生徒が過去の歴史に興味を持つようになるか」を基準に書かれるべきだと思っていました。教科書を読み、学校の授業を通じて歴史に興味を持つようになった生徒が、長じて「科学的なアプローチ」でさらに歴史を掘り下げて研究する。そういうことが期待できる内容ですね。
様々な議論を読んだこの教科書だが、読んでみると一般向けの、一般的な見解を紹介するものに過ぎない。それだけに革新的といわれるかもしれない。<P>特に評価すべき点としては文学と美術の記述である。各時代にそれなりの傑作と考えがあって、それを特筆し、そしてある程度の特徴づけをすることは歴史全体をより鮮明なものにしてくれると思う。<P>その他、全体の流れを容易につかめる点でも評価できる。ただし、やはり平安後期から中世へかけての分量は不足している気がする。古代と近代はかなり詳しく且つ複雑に描かれているのに対して、例えば一つの大転換期であった南北朝はわずかのページ数でおしまい。それもまた、武家の記述が中心であり、朝廷における分裂(皇統分裂とそれに続く公家の間における論争)や寺社の新たな動きはさほど言及されていない。文部省の規定がある故かどうか、後日このところを追求すべきであろう。<P>教科書問題論争についてはあまり述べたくないが、忘れてはならないのは教科書の教室における存在である。教室では教師が第一の指導役であって、教科書はあくまでも教材である。つまり、教科書の存在は教師に劣る訳である。教科書にのみ攻撃と批判を加えるだけでは問題の解決はみられない(どちら側にしても)。そこで、教師に契文を書かせるなどのことが起これば、教育の崩壊に繋がるだろう。くれぐれも、良識に基づく行動を願う。