涙が止まらない。感動の涙ではなく、何なんだろう、これは。どう表現すればいいんだろうか。不惑真っ盛りのおじさんを泣かせる、こういう作品は罪だ。改めて著者の底力を見たような気がする。<P>出だしはいつものとおりの野暮ったさ。いつもの東野、決してうまい文章ではない。しかし、気がついたときにはぐいぐい引き込まれていることに気づく。パズルのピースをはめ込むような計算された展開が少々鼻につくが、それも気にならなくなってくる。<P>弟を大学に進学させたいばかりに強盗殺人を犯した兄、そして兄想いの弟。ふたりの絆や心の変化を、刑務所にいる兄からの手紙をキーワードに語っていく。犯罪とは?差別とは?兄弟とは?人と人との絆とは?そして、現実から逃げることなく強く生きていくということとは?著者がこの作品に込めたねらいは何だったんだろうか。自分が流した涙の意味もわからない。心の奥底で反芻しながら考えてみたくなった。
東野圭吾作品の大ファンの私の姉が、「図書券を送ってやるから絶対買え!」といって薦めてくれた本です。そういうわけで作者の作品ははじめて読みました。なんとも悲しく、苦しく、やりきれない思いが込み上げてきました。毎日のように繰り返される犯罪のニュースを、私はいつも人ごとのように聞いていました。ですがこの本は、私たちは誰もが当事者になる可能性があるということ、そして犯罪のニュースの裏には、悲しみ、苦しんでいる生身の人間がいるという当然の、それでいて無自覚なことを改めて気づかせてくれました。そして私たちは、まぎれもなくそのような世の中で生きているという事実を受け止めなければならないのだ、と考えさせられました。ニュースを伝えるマスコミの方たちにも、是非読んでいただきたい本です。
差別―差をつけて取りあつかうこと。正当な理由なく劣ったものとして不当に扱うこと―とある。本書は、殺人犯の弟というレッテルを貼られた若者が、差別されながら生きていく姿を描いた感動小説。<P> 内容は、弟の大学費用を捻出するために強盗殺人を犯してしまい服役する兄。残された弟は、孤独と世間からの差別を受けながら大人へと成長していく。兄は服役中、弟宛に毎月手紙を出していた。世間から白い目で見られる度に兄という存在を疎ましく思いはじめる。そして、音楽でメジャーデビューしようとするときや恋人と結婚を考えたとき、あるいは就職先など、世間は兄という存在を理由に彼を認めようともしなかった。<P> しかし、就職先の社長と出会った彼は変わっていく。昔から変わらず接してくれる!人と結婚し、子供も授かった。そして、ある日妻がひったくりに遇い、一緒にいた子供が怪我をする。程なく犯人は捕まり、犯人の両親が彼らの元へ。今までは犯罪加害者の側にいた弟は、このとき犯罪被害者の側も知ることに。そして彼がとった行動とは‥‥、そこで見たもうひとつの兄の手紙‥‥、感涙のラストへ。<P> 兄の手紙で文章が上達していく様。弟が成長するなかで知らず知らずのうちに卑屈な性格になっていく様。彼を取り巻く人間模様。どれをとっても絶妙で巧妙だ。そしていつものスラスラ読ませる筆力。「やっぱり東野圭吾作品は見逃せない」、そう思わせるには充分すぎる内容であった。とにかく優れた作品であり、必読の書であることは間違いないと言えよう。