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なぜあの人だと話がまとまるのか? ( 田村 洋一 )

著者は、第3章「戦略的に緊張構造をつくりだす」が本書の中心理論であり、心臓部分だと書いている。第3章では「問題から遠ざかるために歩く」のではなく、「何かに近づくために歩く」には、ビジョンと現実とのギャップによって生じる「緊張構造」こそが創造的な成果を生み出すための強力な道具(ツール)になるのだと言う。そして、ビジョンを言葉とイメージで具体化し、ビジョン(到達地点)から現在を展望する、というアプローチの重要性やマインド・マッピング手法の有効性について述べている。<P>確かにファシリテーション技法として、このようなアプローチは有効であろう。しかし、私はむしろ第5章「相手主義」こそがこの本のコアではないかと思う。著者は、相手主義が自然体でできた時に話が簡単にまとまっていく、また、相手主義は自己犠牲ではない、と言う。相手の立場に立つことがなぜできないのか、それは自分主義ができていないからだ、自分を中心に相手を考えることができない、と気づくべきだ。営業マンの例では、顧客の役に立つ商品、サービスがあって、それを買って使ってもらうことが顧客の役に立つ、と本当に腹に落ちている営業マンは、顧客の視点で話ができる、買っても買わなくてもいい、顧客の役に立つなら買ってもらえればいい、という割り切りができている。そういう自分主義にけりをつけて腹をくくれるようになると、例えばガンジー(私は勝海舟を連想したが)のような自信たっぷりの姿で、相手のために話をまとめていくことができる、と言う。このあたりは、自分主義と相手主義の意味合いが錯綜していて、論理的に疑問を感じる点もあるが、経験的・直観的には大いに肯ける主張であり、そして、実践が最も難しいことでもあると思う。「自分にけりをつける」、確かにこれさえできれば、後はすべてテクニカルな話にすぎない。逆に、相手主義がまったくできなければ、この本の技術やノウハウだけをいくら覚えこんでもあまり意味がないように思う。

著者は「ファシリテーション」を仕事にされているようで、題名も「話がまとまる」とありますが、内容はその範囲で収まるものではありません。<P>生き方そのものついての参考にもなりますし、何よりもコーチングにも通じる基本的な原理がわかりやすく紹介されています。<P>例えば、<P>「相手主義」(相手のことを考えるのではなく、相手の立場になりきり、相手の視点で物を考えること)<P>「意図して意識しない」(物事の実現をはっきり意図して行動しながら、結果の良し悪しを意識せずに目の前の現実に集中すること)<P>「緊張構造」(実現したいビジョンや目標と、それに対応する現実との間に生じる構造的な関係のこと。ビジョンと現実を結びつけ、そこに生じる緊張構造を保ったときにダイナミックで創造的なエネルギーが生じる)<P>最後の「緊張構造」を用いて、なぜ、目標、ビジョンを描くのか? なぜ、現状をしっかりと認識することが必要なのかが、とてもわかりやすく紹介されています。<P>単なる質問のテクニックなどではなく、その奥にある原理的なものを紹介しています。<P>だからこそ、応用範囲が広く、ファシリテーションやコーチングはもちろん、いろいろな場面で活用できます。<P>170ページほどの薄い本ですが、とても歯ごたえがあってお買い得の本です。

~「論理思考強化」とか「ファシリテーション」などジャンル分けのできない本である。どのようにして自分自身の能力を引き上げ、相手に対して有効に展開してゆくのかを説いている、ある意味哲学的な本ともいえる。正味150ページほどで、文章の量もそれほど多くないが、その分かなり高密度な本になっている。よって、一気に流し読みをしてしまうと「ごもっと~~もな正論」としか感じられないだろう。時間をかけてじっくりと繰り返し読んだほうがよいだろう。冒頭で本の読み方まで書いてあるので、自分にとって興味のあるところから開いて読んでいくことができるし、奨められる。難点をいえば、著者の主張の抽象度が高いため、一度読んだだけではわからないところがあるかもしれない。アナロジーやメタファーでわかりや~~すくする工夫はしているが、具体的な事例がほとんど出てこないため、腑に落ちない部分が人によってはあるだろう。「味方チャート」や「戦略的に作り出された緊張状態」など、はっとさせられる概念がそこかしこに散りばめられている。何度も手にして読みたい「知的労働者ハンドブック」のような本である。~

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