デザインは思いやり、もてなしの心。であれば、日本人はデザインの達人であるはずだが…。D.ノーマンさんの本書は、日本人は思いやりによって大目に見て不便さに苦労しているデザインの問題を、論理と感性で体系的に述べている。「良く言ってくださった」と感謝したくなる。<P> 10個ばかりある事務室の蛍光灯、特定の蛍光灯だけを点灯しようとすると、全部試さなければ分からない。押すのか引くのか分からない扉。間違えやすいコンロの点火スイッチ。人間の認識力の非厳密性と対応させて説いてくれるので、自分も悪いが、デザインも悪いと安心する。しかし、大型冷凍室の扉は閉まると中からは開かないというデザインとなると、深刻。「それを知っててウッカリ閉めたあなたが悪い」といわれても…。「硊??かに悪いが、凍死するほど悪い事をしたでしょうか」。ジャンボの航路入力ミスの話となると多くの人命の問題なので、「ノーマンさん、尤もです」。<P> 何年か前、シググラフというコンピュータグラフィックスの発表会で、コンピュータを利用した映画館の設計の講演を聴いた。非常口をどの位置にどのくらいつけると、火災時に逃げやすいか逃げ難いかをシミュレーションで比較検討していた。私は大いに感激したが、発表後に質問も拍手もなかった。本書のような考えは、定着するのは容易ではないのかも。積年の習慣の力でしょうか?<BR> 藤沢氏の「わかりやすい表現」の技術-は、本書の要約本みたいで、さっと読むのに便利です。佐貫氏の「ドイツ道具の旅」は、本書より前に書かれた、体系的ではないけれど、鋭ち?観察眼で集めた優れたデザイン事例と人間味あふれるエッセーで味わい深いです。
全ての”ものづくり”する人にとって得ることが多い著書だと考えます。<P> 本書中、悪いデザインの例としてオフィスの電話を、良い例として自動車を取り上げています。<BR> きっとあなたのオフィスの電話にも、ピックアップや保留等の機能がついています。ぶ厚いマニュアルを読まないと機能の存在さえわからないだけです。<P> これに対して自動車は、電話より機能が多い(エアコンやオーディオまである)のに、初めて乗る自動車でも、運転できると思います。<BR> この2つの差は、ユーザの勉強不足等が理由ではなく、商品のデザインに関係しているというのが本著者の主張であり、非常に参考になります。<P> 私も技術者のはしくれですが、今まで「マニュアルをきちんと書く」というのが最良であると教えられ自分でもそう考えていましたが、<P> ★マニュアルが無しで操作可能なように設計(デザイン)する★<P>が最良の道であることを知りました。
事例は確かに古いようですが、そのようなことは全く関係なく現在でも普通にあてはまるわかりやすいものでした。最近は建築でも工業デザインでも、わりと「シンプル」なものが多いように見えますが、「シンプル」=「何もない(少ない)」ようなことに錯覚しがちです。この本を読んで、アフォーダンスすら省いた「シンプル」が、外見だけでまかり通ってしまっている現状があることを再認識しました。<BR>ユーザーと対象物との関係が明確にデザインされていることも、ものにとっては必要な機能なのだと思いました。この本を一通り読めば、単に「何もない(少ない)」のか、必要な機能を盛り込んだ上で本来的に「シンプル」なのか、デザインするときにも何かを選ぶときにも通用する基準が明確に持てます。