日本語教育において上級の読み物というと、とかく精読が中心になりがちですが、この本はそのような既成概念をやぶり、「楽しく読み物を読む」ようになるために日本語学習者の手助けをするという本です。タスクは、目を早く動かす訓練からキーワード探し、文の並び換え、と言った2~3分でできるものから、ショートストーリーや、阿刀田たかしの小説に至るまで、段階的にとてもよく構成されており、学習者は知らず知らずの内に読む能力をつけることができるようにと考えられて書かれています。トピックもバラエティーに富んでおり、速読のアクティビィティーの前後にディスカッションを行うことができるものも沢山含まれており、非常に使いやすいです。また、中には辞書の使い方、ピザのメニューの見方、!田空港からの空港バスの乗り方の見方など、日本人が実生活で接しているもの、そして、学習者が日本に行った時に実際に目にするであろうものがふんだんに使われており、学習者の立場からも非常に知的刺激に満ちたものであると思います。日本語の授業において、精読の授業の副教材に大変相応しい、優れた本だと思います。
この本は、そもそもは外国人の日本語学習者向けの教材として出版された。しかし、そのレベルは実に高く、もはや完全に日本人の国語学習のレベルに達している。<P> 本書のレベルの高さをもたらしたのは、何と言っても、authentic materials、すなわち、ナマの日本語の文章素材の利用である。一般に外国語学習者向けの教材は、学習用に語彙レベルを落として易しく書き換えたりすることが多いが、この教材に収録されている文章素材は、普通の日本人が日常で眼にするものばかりである。新聞記事、短編小説、果ては新聞のテレビ欄、出前のメニューに至るまでの多種多様な素材に、内容一致・四択・記述問題などが付随する。新聞のテレビ欄や出前のメニューがどうして文章素材なのかと訝る向きもあろうが、TOEIC の Reading Section を思い浮かべてもらえれば、合点が行くであろう。<P> 問題演習中心のこの本は、日本の国語教育で言えば、小学校高学年~中学校、部分的には高校レベルの内容まで含まれる。外国人の日本語学習者でこのレベルまで来た人がどれくらいいるのかは疑問であるが、逆に純粋に日本人が日本語(国語)力を高めるのに、これほど妥当な本はない。学力崩壊が顕著な事実となった今、すべてにおいて基礎力不足の中高大生(&社会人)は、この本を通じて日本語のリーディング・スキルを学べる所が大である。この本ならば、少なくとも挫折することはないが、かといって、簡単すぎると感じることも平均的な日本人ならばあり得ない。少し値が張るのが難だが、内容は実に充実しており、素材の多様性ゆえに、何より楽しい。日本語教育の成果がようやく国語教育に還元されつつあるのを肌で感じられる良書である。<P> なお、ちょっとジャンルは異なるが、同様に楽しめる本に古藤晃『ジャンル別英文読解以前〈な問題集〉』(研究社出版)も挙げておきたい。こちらも実はすべて「日本語(国語)」の文章理解の本である。