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もうひとつの手話―ろう者の豊かな世界 ( 斉藤 道雄 )

 聴覚障害に関わる者にとっては既視感を誘われる本である。話の流れをおおまかに紹介すると「日本の聾学校は手話を禁じる暗黒の世界だ」→「手話は独立した言語であることが最近わかった」→「ネイティブ・サイナーのほうが教科学力も高いのは常識だ」→「日本語対応手話は手話ではない」→「これまで聴者はいかにろう者について無理解であったか、恥じるべきだ」→「ろう文化は素晴らしい世界なのだ」。<BR> これは「ろう文化宣言」以降に発表されたこの種の本のほとんどに共通の展開ではないだろうか。<P> 誤解無いように言い添えておくが、この本に書かれた事の90%以上は事実である。問題なのは、事実を並べれば「全体図が見える」わけではないという事だ。注意深く選び抜かれた事実のみを並べるの!は、政治運動のイロハのイである。おそらく著者自身、ある政治集団の掌の上で見事に踊らされたのであろう。<P> ろう文化の世界は確かに衝撃的である。しかしジャーナリストたるもの、その衝撃の中でなお一定の冷静さを保つべきであり、その点で著者は少々熱くなりすぎたようだ。<BR> この本は聴覚障害の世界を知るきっかけとしては良いと思う。ただしこの本に書かれた世界だけが聴覚障害の全てだとは考えない方が良い。

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