26歳で睾丸腫瘍になった新聞記者の手記である。睾丸腫瘍と同じ種類の胚芽細胞腫の治療を私は医者としてやっていたことがある。医者の立場から手記を読んでいて、横浜国大の治療に少し首を傾げる場面もあった。<P>それにしても、新聞記者はどうして『殆ど全員が』タバコを吸うのだろう。タバコには200種類以上の有害物質、40種類以上の発癌物質が含まれている。20代の若いうちからその悪影響で発病する人も決して珍しくはない。<P>『ときどき、ポケットの携帯電話にふっと意識が行ってしまうのは仕方がない。「三度目」(再発)が来るのか来ないのか。あと三年間は「レッドゾーン」だ。再発を告げる携帯電話は、いつ鳴ってもおかしくない。忘れようとか、完治したことをひたすら信じようとかではなく、がんと、自分と向き合いたいと思う。いつか死ぬという現実をときどき意識することは、何が大切なのかを考えることにつながるから。』<P>ガンが教えてくれることは、一日一日がかけがえもなく大切であり、妻や子供や友人(そしてその他大勢も)と過ごせるひと時ひと時がかけがえもなく愛しいということ、それを教えてくれ気づかせてくれるのが『病気』なのだ。
雲がびゅんびゅん飛び、雨がびしびし皮膚に痛い。本を読みながら僕はずっと嵐の中にいる気分だった。<BR> 時々息を呑まないと苦しくなった。読み終わった後、ふーんと思った。ふーんと思ってそれからもう少し人生をがんばろうと思った。そのあと電車の中で少し泣いた。
本書はすぐれた医学・医療関連記事に贈られる「第21回ファルマシア医学記事賞」に入賞した。だから良い本だと簡単に決めるのではないが、「自分は健康そのもの」と信じていた筆者が、20代でがんを宣告され、再発を乗り越えて仕事に復帰するまでの姿が、飾らずに描かれている。<P> 病気になったとき、人は何を思うか。病院はどんな様子かなどを、患者となった記者の視点から正確に記している。かといって通常の新聞記事のようなかたい文書ではなく、エッセイ感覚で読める。妻、家族、上司の愛情も伝わってきた。病床で落ち込んでいる友人に、プレゼントしたい。