日本人初のボリショイ交響楽団主席指揮者。最近よくテレビ等にも出演し、徐々にその知名度を高めつつある。<BR> 「女性が指揮者になるのは、将軍になるよりも難しい」というクラシックの常識をはねのけ、見事に主席という座を勝ち取った女性である。才能はもちろんあったのだろうが、その努力たるやすさまじいものがある。<P> 黒い詰襟の燕尾服に身を包み、全身でタクトを振るその姿。その颯爽とした姿の裏にはどれだけの涙があったのだろうか。<BR> この本はその片鱗だけだけれども、彼女の軌跡を感じ取れる内容となっているが、まずは彼女の演奏を聴いてから手にしてもらいたい。
2002年1月、モスクワで初めて会った。モスクワ音楽院で首席指揮者になった瞬間に遭遇。その後、友人宅にご一緒して聞いた留学時代の話。音楽の話。これからの課題。どこまで彼女は突き進むのだろうと思った。帰国して1ヶ月。彼女の魅力を多くの人に共感してほしくなった。<P>本書冒頭の豊橋交響楽団とのリハーサル風景。頭の中で鳴っている弦楽器の音を引き出すために限りある時間の中、何度も何度もやり直しをして曲を作っていく。<P>地元の人たちとの交流。デビュー前から応援し続けている人たちの暖かいまなざし。音楽性が評価され多忙になれば「遠い人」になりがちだが、西本さんは屈託のない笑顔で仲間と談笑し、距離を決して遠ざけない。<P>エウゲニ・オネーギン。ロシアからスタッフを招いて作り上げる!!!ペラという総合芸術。留学時代から信頼関係を築き上げてきた演出家とのコラボレーション。<P>力強さと繊細さを兼ね備えた演奏を引き出す音楽性。前向きでパワフルで、なのに気さくな人柄。写真集は西本さんの魅力の一部がぎゅっと詰まっています。
某誌で、たまたま西本さんを見かけた。それは2002年の秋頃で、わたしは、そのときまで彼女の存在を知らなかった。そんなに大袈裟な記事ではなかったが、心には衝撃が残り、ずっと忘れられず3ヶ月後に、この写真集を手にした。わたしは女性が指揮者になれるとは、これまで一度も考えたことがなかったのだ。指揮棒を女性が振ると、どんな風に見えるのか?服装は?やはりフロックコートか、それともドレスか?<BR>写真集を開くと、フロックコートがよく似合うスラリとした西元さんが、指揮棒を片手に、何かに挑むような目つきで立っていた…。本書カメラマンのコメントでは「鬼か阿修羅の形相」。フォローしたいが否定できない。しかし美しい。…彼女にはいったいいくつの「初」がつくのだろう?<P>ボリシ!!イ管弦楽団の日本人初主席指揮者に就任した、西本智実を追う写真集は、ファンならずとも興味を覚えるのではないだろうか?本書冒頭では、性別も年齢も国籍も超越した、一人の闘う芸術家の写真ページが続くが、さらにページを進めると、彼女は普段着になり、20代を終えたばかりの元気な女性の笑顔になる。<P>本書は、写真と取材ライターによる文章で綴られ、単なる写真集というよりも1冊の本といった感じに仕上っている。ただ、文章表現がちょっと難ありではないだろうか。文章よりも、彼女自身の生き方のほうがより深そうで、文章では描き切れていないものを感じた。それが1つだけ残念だ。