△実に平易な文章で綴ったインド入門書といった趣の書です。著者は90年代前半に東京銀行のニューデリー支店に勤務し、現在は日印のビジネス・コンサルティング会社の代表を務めている人物ですが、専門分野の経済に関する事柄に限らず、宗教や教育、政治や外交といった分野にも分け入って筆をとっており、まさに2時間でかの国を概観するための好著に仕上がっています。<P>▼ガンディの独立闘争を「非暴力、非抵抗」と書いています(20頁)が、「非抵抗」では抵抗しなかったということになります。ガンディの闘争戦略は「non-violent resistance」なので「暴力を用いないで抵抗する」ということのはずです。<BR> <P>▼「都市部の中産階級を中心に衛星放送が急速に普及してきた。衛星放送用アンテナで受信し、有料ケーブルによって視聴が可能となったのである。この衛星放送ではCNN、BBC、ZeeTV、MTV、スポーツチャンネルなどを二四時間視聴できる。」(158頁)<P> この文章は誤解を与えると思います。「衛星放送が急速に普及してきた」と書いた直後に「有料ケーブルによって視聴が可能となった」と続けているために、衛星放送とケーブル放送の一体どちらが普及してきたのかが日本人には不明瞭でしょう。<P> インドでは、衛星から発信される外国の放送シグナルを有料ケーブル放送局が自社の大型アンテナで受信し、ケーブルを通してそれを一般家庭に送信しているというのが実情です。つまり「衛星放送用アンテナで受信」するのはケーブル放送局、「有料ケーブルによって視聴」するのは一般家庭というわけです。異なる2つの主語を省略したために上記の文章は不明瞭となっています。
パキスタンとの国境紛争、カースト社会、核実験など、何かと負のイメージがつきがちなインド。しかし、政治的には村落レベルにまで民主主義が成熟しており、アウンサンスーチーさんが自国の民主化モデルにしたいと賞賛するほどですから、とりあえずひと安心できそうです。ネルー一族による社会主義的一党支配の時代には、宗教紛争の深刻化、財政赤字の増大、80%を超える超酷税、外資への規制強化など、少なからず問題があったようですが、それも多政党政治への変遷、経済自由化の導入などで、少しずつ改善されているようです。<P>本書で述べられているのは、インドに関する全般的な内容ですが、とりわけ経済・ビジネスに関する記述が精力的。世界第四位の購買力平価、緩和が続く外資規制、優れたIT技術。ますます強まる米国との結びつき、自動車産業の巨大市場化など、インドが魅力あふれる市場であることは間違いありませんが、一方で、エネルギー・交通インフラの不備、農業・医療分野での技術の遅れ、脱税による巨大なアングラマネー、零細企業・公営企業の過剰保護体制など、まだまだ改善されるべき課題も多い。しかし、インドが中国に続く注目すべき市場であることは間違いなく、現地進出や企業提携を考えるビジネスマンには必読の書です。<P>また、政治・経済以外にも、過熱化する受験戦争、英語情報が圧倒的に多いマスメディア、南北で異なる食生活、多言語・他宗教の情勢など、幅広い分野について書かれており、ビジネスマンに限らず、長くインドで暮らすことを考える人には、是非読んで欲しい本だと思います。
これといった特色のない本であるが、「とりあえずインドの実態を知りたい」人にはオススメ。少なくとも、カレーと像くらいしかインドを連想できない人にとっては、自分の固定観念を壊すにはよいかもしれない。ただ、べつに本書は観光や旅行のためのものではなく、あくまでアカデミックな内容である。そのため、昨今のパキスタンとのカシミール問題についても言及しているので、それと同時にインドそのものを学ぶのも悪くはないだろう。