要求工学の基本やIEEEなどの規格に忠実に、"要求とは?"から始まり、要求の引き出し、要求分析、SRS(要求仕様)のまとめ方、要求管理まで<BR>じつに網羅的に、著者の経験談も交えて丁寧に解説されており、米国での評判に納得しました。翻訳も一般的な訳語(でもJISの訳語とはかなり違う)、"ですます調"で、良いと思いました。書籍の性格上、特に要求プロセスについて何か著者独特のものが示されているわけではありませんが、まず基本的な知識をと思っている方には最適だと思います。要求プロセスで何か読んでみたい場合は、ロバートソン夫妻の「要件プロセス完全修得法」(三元社 ISBN 488303111X )が良いと思います。(有名で本書でも参考文献になってます。ただし日本版は翻訳が悪い)
4部22章(原書は23章)から構成されており,顧客の視点からの要求の意味,要求の開発,管理,工学としての実行の順で論旨を丁寧に進めている.我が意を得たりと思う実践的な7分類50のプラクティスが中心となっている.さらにはプラクティスで陥りやすいトラップも要所要所で指摘されていて,なるほどと感心させられる.また,常に問題となる要求,要件の曖昧さの原因分析やその分類も有益であるし,要求におけるモデルやプロトタイピングの位置付と価値を再認識させてくれる.よく言われる「ユーザーの参画が重要」についても単にそれだけではなく,さらに深い議論がなされおり,アジャイル手法におけるユーザー参画の問題も指摘している.要求の網羅性の担保や要求定義作業終了基準にも言及し!いて,実務に携わる技術者にとって好ましい内容レベルとなっている.<P> しかし,本書は単なるプラクティス集ではなく基本の考え方として「業務要求」「ユーザー要求」「機能要求」にレベル化し識別する必要があることや「要求開発」と「要求管理」をその間に「ベースライン要求」を介在させることで分離すること,さらには「機能的要求」と「非機能的要求(品質属性)」も明確に分離するなどの体系化,工学的アプローチが組み込まれている.そして,要求にかかわる混乱の原因は,異なるレベルの要求の混在,混同,相互のトレーサビリティの無さ,矛盾の存在にあるとの指摘は納得できる.解決策の一つとして要求仕様書のためのテンプレートIEEE830-1998が紹介されその活用を推奨し,さらには要求!そのもののパターン化,再利用を推奨する論旨は近年の全体最適を目指す Enterprise Architecture の思想にも繋がる記述であると考えられる.「非機能的要求」を表現する設計言語として Planguage を紹介しているが,記述が2ページに満たない点は残念に思う.<BR> 本書は,要件定義の入門書というよりは,いままで要件定義でさんざん苦労してきたプロジェクトリーダーや,DFDやユースケースでモデル化による要求定義に苦労してきたITアーキテクトらが「要求アナリスト」のロールを明確に意識しその役割を果たすときの体系とプラクティスを兼ね備えた「改善」のためのバイブルとなるように思われる.<P> 訳は,丁寧なセミナーまたは集中講義を聞いているようなスムーズさがあり読書スピードと理解に大きく貢献している.ただ原書にある要求仕様ツールの章や付録がページ数の関係で割愛されているのは非常に残念である.
文章表現が若干堅苦しく、少し読むのに疲れるものの、記載されている内容は非常に素晴らしい。<BR>何が素晴らしいかと言うと、SI会社やコンピュータメーカー等のSEやSAが、要求定義段階で見落としがちだが、本来やるべきことが明確に書かれており、要求定義の重要性を述べるだけのつまらない本ではない。<P>実践に応用する(実案件に置き換える)ことこそ必要なものの本質的に決めておかなければならないアイテムを述べ、なぜ必要かを説いている。<BR>プロジェクトの成否に関わる重要だが、軽く見られがちな要求定義におけるSEやSAのバイブルとなりうる本であると思う。