本書を読んだときに、私が違和感を感じ立ち止まってしまうのは、口承歴史(oral history)と公的歴史の差なのかもしれない。歴史の時間で教えられる歴史以外に、自分を取り囲む人たちから口で伝えられた歴史があるからかもしれない。それは、軍部の堕落であり、戦中のプロパガンダであり、闇市であり、共産主義の台頭であり、天皇制がいかに日本の歴史において機能してきたかということである。それでも、私に口承歴史を伝えてくれた人々は、悲惨な歴史の中でも生き延びるためにその人たちが発揮した知恵と、自分の国と国の歴史に誇りを持つことの大切さであった。本書は、この口承歴史と公的な歴史のハザマを行っているような気がしてならない。
このような本が、これまで日本人によって書かれなかったことが不思議でなりません。確かに、日本人では入手できない資料があったのかもしれません。しかし、このような本がアメリカ人によって初めて書かれたということ自体が、戦後の(そして今日の)日本の歩みそのものを象徴しているように思われてなりません。<P>1945年の敗戦間もない頃、日本はやすやすとアメリカの言う「民主主義」をありがたく受け入れました。同時に、天皇制はそのままに官僚主義をも温存、いやむしろ、強化してきました。<P>極東軍事裁判を前に、このような基本的な枠組みを残すことに腐心した当時の占領軍の意図を知ると、空恐ろしい気持ちに襲われます。民主主義の衣をまとったものの正体はなんだったのでしょう。その正体を、ベトナムやイラクで、そして沖縄で私たちは見ているのかもしれません。<BR>多くの貴重な写真が、知らなかった歴史の隙間を見せてくれます。<P>「もう戦後ではない」と言われてどれほど経つでしょう。しかし、まだ、戦後が続いているのかもしれません。