「喰らわれしもの」。死と虚無と暗闇に身を捧げる少女。陰でうごめく権力への策動。これはお伽話か?いやそうではない。諦めと絶望で若くして身動きもならない人など、周囲に目を向けるだけですぐに見つかるではないか。<BR>この話は現実の世界を極度にシンプルにして我々の眼前に示すものだ。<P>虚無から脱出することは、どのようにして可能か。それを描写するのにこの本ほど美しくまたリアルであるものは、本当に稀である。<BR>主人公であるテナーは、すでに罪人たちの命を奪ってしまっている。それに<BR>気づいたとき、本当の悲しみと嘆きは始まる。にもかかわらず、彼女の脱出を<BR>読者は心から祝福することができる。<P>暗黒の迷宮の中で生死の境をさまようゲド。しかし彼は言う。<BR>「私はどうしたら生き延びられるか、考えつづけているのです」。<BR>死を間近に直視しつつ、それにのっとられてしまわぬ力。たったひとりの少女が解放されるために、これほどの努力が必要なのだ。<BR>精神的に、あるいは肉体的に病につきまとわれるものを、強く励ます傑作だと思う。
隠れ名作ファンタジーの二作目。<BR>一巻は主人公であるゲドの成長が描かれましたが、こちらはゲドとは違う国に住む、違う人種の女の子の成長が描かれています。<BR>決められた道、決められた運命、幼い頃からその心も体も縛り付けられていたアルハは一人の魔法使いと出会い、テナーとして生きる事を決意する。<BR>しかし決意には困惑と苦痛が伴います。<P>一巻に比べ、当たり前と言えば当たり前ですが、心理描写が多いです。<BR>テナーの心が、地下の暗黒の中で火のように動き回ります。<BR>広い世界へと出たテナーの姿は、四巻の「帰還」で見る事ができます。<BR>ここまで読んだら、続きを読むしかないでしょう!
ゲド戦記シリーズの中で最も怖い、暗い空気が漂うのがこの「こわれた腕環」ではないかと思います。ゲドはなかなか登場せず、「喰らわれしもの」――すべてを犠牲にして闇につかえる巫女、アルハを中心に物語は進んでいきます。このアルハの驕った態度といったら、「影との戦い」でのゲドのようです。<P>しかし「こわれた腕環」に登場するゲドにはもうそのような傲慢さはありません。ゲドは闇にとらわれた少女を光の中へ救い出し、目を開かせるのです。テナーという名前を取り戻した少女のとまどいもよく伝わってきます。私たちも地下の迷路で息を殺せるほど、主人公の二人に寄り添える、すばらしい描写にあふれた一冊です。<P>これはただのファンタジーではないと思います。味わえば味わうほど美味しい、永遠にそばに置いておける本だと思います。