帰還―ゲド戦記最後の書 みんなこんな本を読んできた 帰還―ゲド戦記最後の書
 
 
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帰還―ゲド戦記最後の書 ( アーシュラ・K・ル=グウィン 清水 真砂子 Ursula K. Le Guin )

三部作と思われていたゲド戦記は、大人の読書にも十分耐えうるが、基本はやはり子供のために書かれた物語だった。しかし、長い沈黙を破って出たこの最後の書、「帰還」は大人のための「痛み」の物語である。世界の均衡を取り戻すため、自らのすべての力を使い果たして戻ってきたゲド、平凡な女としての人生を選んだ、かつては闇に仕える巫女であったテナー、そして、強姦されて火に投げ込まれ、瀕死の淵からテナーに助けられた少女テルー。しかし三人に容赦のない悪意が付きまとう…。 偉大なる力は失われ、罪も無い子供は徹底的に損なわれる。<P>読んでいる間中、文字の間に漂う緊迫した空気に肉体的な痛みを感じるほどだったが、これほど心の深いところまで入り込む本に出会ったのは久しぶりのことだった。これは夢や冒険のお話ではない。失っても失っても生きていかなければならない、私たちの物語なのだ。

四巻が出たのを知っていたが、私は三巻以後のゲドに興味を失っていた。<BR>十五年ぶりに、四巻からアースシーの世界に入った。<P>ファンタジーの世界は終わっていた。<BR>魔法という力を失い、苦悩するゲド。栄光に輝いた大魔法使いとしてのゲドしか知らないがため、彼を受け入れるかどうか悩むテナー。<P>一気に読み終わって、読後感は重いものの、希望を感じないわけではない。<BR>何より鮮烈なのは、女として、妻として、母として生きてきたテナーの強さ。<BR>平凡な人生を選択した彼女が、人生の転機に迷うゲドよりもたくましい。

大人になってからは「ファンタジー」と名打たれたものを読まなかったわたしに、認識を新たにさせ、自分の生き方にまで挑みかかられたような思いをさせてくれたのが、この『ゲド戦記』シリーズ。中でもこの4巻がなければ、これほどまでに深くこの物語に愛情をそそぐことはなかっただろう。<P>4巻を初めて読んだときはつらかった。そこは舞台はアースシーではあるものの、紛れもなくわたしたちの生きる世界そのものだったから。けれど何度も読むうちにこの物語の深さ、そしてつらい現実に時を同じくして生きる「人間」にそそがれる著者のあたたかい眼差しを感じ取り、大人になった今、この物語に出会えたことに感謝した。わたしが子どもだったらこの物語に打ちのめされてしまい、失望し、二度とこの本を開けなかっただろうから。何もかも失った(と思いこんでいた)ゲドが、もう一度生きようとする姿は、美しいと思う。1巻と同じ負けず嫌いのゲドを見るような思いだった。よく読めばあの少年ゲドは今もゲドの中にいるし、あの少女のテナーもテナーの中にいることがわかる。<P>すばらしい「ファンタジー」は現実から逃げることを許さない。逆に現実に立ち返ることを求めてくる。この第4巻を経て、物語は約束を果たしに第5巻"The Other Wind"へ続く。再びアースシーへ招いてくれたことにも感謝。

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