幸福だった幼少期の思い出とその中で衝撃だった母の死を描いて文壇にデビューしたトルストイの名作を思い起こす作品。しかし全くアイディアの盗作というわけではない。少年時代を思い起こす「鍵」としての銀の匙をきっかけに記憶を次々と想起してゆくというスタイルの作品だが、他のレビュアーも絶賛している通り、最大の魅力はその淡々とした文体である。日本語で書かれた小説としてひとつの見本となると思われる。戦前を代表する小説のひとつとして長く読み継がれるであろう。
中勘助の代表作。今では有名な作家であるが、当時は全くの無名。夏目漱石が絶賛。解説で和辻哲郎も絶賛している。いまでこそ、こういったスタイルの小説はよく見られるかもしれないが、当時は、なかったのだと聞かされるとすごいと思う。美しい文体で嫌みが全くなく、それでいて印象深い。情景も目にありありと映るようで楽しい。すばらしい作品である。
なんといっても文章の美しさ、優しさに、こんな素晴らしい小説が読める日本人である幸せを感じてしまいます。<BR>作者に感情移入して切ない気持ちになったりするのですが、私は彼を愛してやまない伯母さんがたまらなくいとしくて、伯母さんが泣く場面では必ず涙涙涙です。<BR>何度も読み返す本というのは何冊もないのですが、この本は数少ない読み返す本です。<BR>大好きです。