1982年9月から1869年2月に渡り、幕末、明治維新の激動期を駆け抜けた青年イギリス外交官の回想録。薩英戦争、下関戦争、鳥羽・伏見戦争などの現場に身を置くとともに、数々の日本人有志らとネットワークを築き、またいわゆる『英国策論』によって日本の政治体制の転換を提起するなど、20代前半という若いその才能を、故国より遠く離れた極東において存分に発揮する。サトウはその後、外交官として数々の重職を歴任し、Sirの称号を授与された。イギリスきっての日本通として、日英同盟の成立にも寄与。 <P>幕末・明治維新期の日本の政治的激動、また当時の日本人の日常が外国人の視点から至極客観的に描かれていてとても興味深い。しかし私が最も感銘を受けたのは、当時の日本に接近していた西洋列国の相互関係のやり取りに関する記述である。大君政府に深く肩入れしすぎ影響力をすぼめていったフランス・ロッシュ公使と、特定政府との関係ではなく日本全体を相手取って「局外中立」を堅持し、結果的に新政府と最も良好な関係を築いたイギリス・オールコック卿とハリー卿。イギリスの憎らしくなるほどの老練な外交手腕に思わず深く感じ入ってしまう。世界に架ける「自由貿易」によって国を富まそうとするイギリスは、内戦に深入りすることを好まず、それゆえに急速に推移する権力配分を大局的に掴むことができ、大君政府の没落、朝廷・西南諸藩の台頭を他国に先駆けて感じ取ることが可能だったのである。
イギリスの外交官アーネスト・サトウ(1843-1929)による、1862年9月から1869年2月に渡った日本滞在時の回想録である。本書は著者の日記から書き起こされたもので、書き漏らされていた部分は自身の記憶と母への手紙などで補われている。また、執筆時期は1885-1887と1919-1921の二期に別れている。<P>上巻には、日本に赴任するまでの簡単な経緯と、赴任してから1867年5月頃までのことが書かれている。18才で日本に興味を持った著者は好奇心や冒険心も旺盛で、海路よりも時間のかかる陸路で大坂から江戸に帰ったりするのであるが、そうしたことが当時の日本を子細に描写する結果に繋がっている。また、実際に会った人たちの印象をほとんど書き記しているので、徳川慶喜が貴族的な容貌をそなえていたことなどもわかる。もちろん政治的な交渉の場面も記述されていて、明治維新というものを、日本国内から第三者的視点でリアルタイムに描いた貴重な回想録となっている。