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生物から見た世界 ( ユクスキュル クリサート Jakob von Uexk¨ull 日高 敏隆 羽田 節子 )

 科学の古典は、事実的にはその後の進展で誤りであったり、古くなってしまう部分がでて来るものです。しかし初めて一つの概念が世の中にあらわれる時、どのようにしてその考えに到達したのか、どのような形でそれを伝えようとしたのかを読むものに伝え続けるものが古典として残っているのではないでしょうか。<BR> この本は生物種それぞれにはそれぞれの「主観的な」環境の世界があり、主観的な環境の違いは同じ人間という種の中でも「物の意味」の違いとしてあること、を説いた生物学の古典です。「わかりやすい科学」叢書の一冊として、「見えない世界の絵本」という副題付きでドイツで1934年に発刊されました。沢山の絵入りで解説されているのでわかりやすい・・・と期待するのですが、文章はそんなに簡単ではありません。よく意味を表現しているたくさんの絵に随分助けられていると思います。その後の実験的証明などで明らかになったことを知識として踏まえて読む現代の読者には、当たり前のことを難しく書いているように思える部分もあります。しかし、新しい概念を世に紹介していく時の、書き手の熱意が伝わってきます。<P> ヒトも他の動物もそれぞれに固有の世界を生きている、と納得するのは、どこか、小さい子供が他の子供も自分と同じように叩かれたら痛いのだとわかった時とか、自分の親も自分と同じような子供時代があったこと、同じ人間だと気づいた時のような、いきなり世界が広がる体験をくれるものだと思います。もしかしたら地動説が登場した時もそんな風だったのではないでしょうか。新しい視点を感じた時、広がった世界を感じることのできる自分を大きくなったと思うか、世界が広がった分だけ相対的に小さいと思うのか。これは本書の題材とは離れてしまいますが、そんなことも考えさせてくれる本です。<BR> 

暫く見かけなくなっていたが、数十年前であればちょっと専門書を<BR>あつかっている書店の生物学コーナーでは必ずみかけた古典的著者。<BR>生物がそれぞれの固有の世界性に宿命付けられているという(あた<BR>りまえといえばあたりまえの)考えを思弁的にならずに生物学的に<BR>考察してみせたものだ。とりわけ「環境世界」という概念の与えた<BR>影響は多大で、面白い事にそれにヴィヴィットに反応したのは哲学<BR>だったようだ。超越的な視点を前提にしない限り、ヒトの「環境世<BR>界」を問題にするとき必然的に認識論や意味の問題を引き寄せてし<BR>まうからだ。「世界内存在」や「生活世界」ヤ知覚の現象学がかな<BR>ずしも本書の範疇にあるとは言わないがそれらに興味のある方には<BR>一読をお勧めする。現代文庫でなくやや安価の岩波文庫でリリース<BR>した見識を鑑みても買の一冊です。

 1934年にベルリンで出版された動物学の古典。多方面な分野に影響を与えた名著です。1973に翻訳され、同じ訳者による新訳です。内容は格段と理解しやすくなりました。<P>・動物は皆、一つの世界に組み込まれて、その一部として生きているのではない。<BR>・動物は、各々特有の知覚世界と作用世界に生きており、その中心主体と考えるべきだ。<BR>・空間・時間も、物理学で言うような同一ではなく、各動物の目から見れば、それぞれ異なる。<BR>・行動も、各動物で異なる主観的な知覚と作用の結果であり、その意味付けも異なる。<BR>・全ての動物は、全て独自の自分なりの環世界を作って生きている。<P> このような環世界論が理屈ではなく、明快な実験で裏打ちされながら、述べられます。<BR> 読み進む読者には、今でも斬新で刺激的な概念と共に、この環世界への扉が劇的に開かれます。<P> 同じ世界に生きているのだから何とか解るさ、という安易な現代の思いこみが鋭く批判されます。

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