本書の主たるテーマは、文章を書くための準備における心構え、思想を文章に表現するための方法(接続助詞について、日本語への甘えを捨てること、文章は空間の時間化であること、文献の引用の方法)、思想と現実の経験との関係について説明されています。<BR> 本書の特徴は、著者がいままでに経験した苦悩や挫折などの失敗談を前提に踏まえた上で、さまざまな文豪のフレーズを適格に引用し、執筆当時の著者の文章哲学に結び付けているところです。そのため、本書を読んだ者は、かつての自分が文章を書く際に悩んだことや疑問に思っていたことと著者の体験談との間に共通点を感じた時に、著者との一体感を感じることが出来、そしてその体験談の後に間髪をいれずに著者の文章哲学が展開されていることから、著者の文章哲学と自分の考えの一致という高みに自分を昇華させることができます。<BR> 著者は自分の考えが自分の中で明確になっているためか、もしくはその表現技術が巧みであるためか、読者は著者の思想に直接触れているかのような感覚を覚えると思います。
これは、論文の形式的な規則や規範を客観的に解説した書ではなく、寧ろ、文章を長年に渡って書き続けてきた著者の、『書くこと』に対する、否、ひいては言語そのものに対する、一種の実践哲学を綴った書である(ここで『実践』と敢えて言うのは著者は言語や文章の理論的研究を専門とする言語学者というわけではないからである)。その意味で卒業論文など当座の目的を抱える者が、この書から具体的かつ即時的な利益を得られるか否か、これは疑わしいと言わざるを得ない。けれども、書くということ、あるいは、言語を用いるということについて多少なりとも深く考えた経験のある者にとっては、この書は多くの示唆に富む良書だと思われる。初版が出たのが50年近く前ということもあって、確かに古めかしい意見が散見される。けれども、その古めかしさが驚く程痛快に、現代における人々の文章作法、言語使用に関わる諸問題を精確に射抜いている。筆者がこの書において50年前に危惧していた事態は、改善に向かうどころか、現在ますます深刻なものとして具現化されつつあるように思われる。その意味でこの書は決して旧くない。現在も、そして、これからも我々日本人が格闘し続けねばならないテーマを見事に提示してくれているのである。<P>文体は平易で、晦渋な部分は殆ど見当たらない。もちろん扱う対象が違うので迂闊に比較することはできないものの、同じ岩波新書<緑>から出ている丸山真男著『日本の思想』などと並べると、余程気楽に読んでいくことができる。読書好きの者であれば高校生でも読破できるであろうし、少なくとも文科系の大学生であれば一度は読んで欲しい一冊である。
法科大学院の小論文対策として読みました。新書を40冊以上読んで、その後、通信添削で、東大後期の文Ⅰの問題を3年文6問(1問につき2回添削)で合計12の答案を仕上げた後でこの本を読みました。文章を書きながら漠然と思っていたことや、疑問を感じたことへの指標が随所にに見られ、府に落ちる内容でした。長い間、刷を重ねている名著だと思います。<P> ただし、入門者がいきなり読んでも抽象的で、この本の価値は掴めないと思います。私も1年前に読んでいたなら、理解できなかったと思います。