河合隼雄だ。この人、スゴイよね。これは子どもの本ではない。大人のための本だ。「子どもの宇宙」も単に子どもの中にだけある「宇宙」ではない。実は大人の中にもある「宇宙」なのだ。その「宇宙」とは何かが問題だ。この本で取り上げられていることから言えば、それは夢であり狂気など精神の病であろう。それは賢治の「夜」であり、その座は無意識なのだ。私たちの心の裏側は宇宙とも言うべき無限とつながっている。そこは死の世界であり、生や性のふるさとでもある。日常のあちこちにそこへの奈落は口を開けている。子どもは容易にそこへ落ち、大人は見て見ない振りをして通り過ぎる。ただそれだけの違いだ。だが、私たちの生はそこから生まれ、そこからエネルギーをもらってこそ、幸せに生きられるのだろう。また、児童文学が読みたくなった。
まさに題名の通りの印象の著作であった。未読の方にはわかりづらいかもしれないが、子どもの想像力の無限性、子どもの行動の奥深さなど、一つの著作で収まるものではないと作者自身も述べているが、確実にそのひとかけらを見せてくれた作品であった。<P> 作者のほかの作品もいくつか読んだが、今回は臨床心理士(カウンセラー)としての顔に加え、児童文学の読み手としての顔ものぞかせている。子どもの宇宙にもそれなりの規則はあるが、それは見破りにくく、親や教師などは以前その宇宙を持っていた存在であるのに、その宇宙を忘れてしまいがちであると言いたげであった。またそれぞれの児童文学を読んでいなくてもわかりやすいように、概略が掲載されており、作品分析にありがちな「読者を意識する事」が明確になされてもいた。<BR> 宇宙の規則の難解さを解くための参考書として、作者は登場させているように思える。それだけでは十分でない事は確かであるが、それにしても児童文学というものは奥深く、様々な意図をもって編まれたものである。<P> また臨床心理士として活躍されている時の作者の記述には正直驚かされた。子どもは狙って、行動しているとは思えないが、子どもの心の象徴されている事例を見破る作者の技量もさることながら、子どもの心理の奥深さ、また表出している子どもの無言のアピールには、まさに「宇宙」を感じずにはいられなかった。<BR> <BR> もくじを見ればわかると思うが、宇宙という抽象的なものを体系的にまとめようとする作者の努力が窺え、非常に読みやすく、勉強になる作品であった。臨床心理士と児童文学者のふたつの顔を併せ持っているからできる業である。 この著作を糸口に子どもの宇宙に対する見識を徐々に広げてゆきたい。
河合隼雄氏が児童文学について書いているものは、この新書の出版前後にも何冊か文庫化されていて、いずれも素晴らしい内容です、ただしそれらが過去に各所で発表したものを再編したものであるの対し、本書は近年の書き下ろしであり、まとまりと深みにおいてベスト、渾身の1冊だと思います。<P>子どもと、家族・秘密・動物・時空・老人・死・異性という7つのテーマに全体を切り分け、子どもの世界にこれらがどう関わるのか、著者の深い洞察を展開しています。そして、その中で家出や登校拒否などの今日的問題を扱いつつ、優れた児童文学に触れ、それらから得られるものを解き明かし、読者に子どもの持つ豊かな可能性を示しています。<P>児童文学について書かれた従来の氏の著作に比べ、遊戯療法や夢分析の事例など、臨床心理学者としての視点が前面に出ている一方、育児・児童教育についての示唆も得られる本です。もちろん児童文学案内としても読め、本書の中で紹介された本は、是非とも読んでみたくなります。