そしてこの本の分析した時代のあとに、オレンジレンジというJポップ界の救世主が出てくるわけで。<BR>この本の中で「通用しなくなった」という手法を全て焼き直し、なおかつ「新しい音」(パクリがどうこうとか低次元な話ではなく)を作っている。<BR>本書で最後に出てくる「心に届く音」というのは、あまりに曖昧なので言及するに値しないが、音楽業界は手を変え品を変え「心に届かせる音」をつくり続けていると思う。<P>それとこれも「通用しなくなった」と認定されてる、テレビとのタイアップだが、現在、アニメとのタイアップが有効的な手法と考えられ、熱い分野になっている。
「Jポップとは何か」という問いは成立しない。<BR>なぜなら、「Jポップ」に実体はないからだ。<P>今まで「歌謡曲」とか「ポップス」と呼んでいたものが、なんとなしに「Jポップ」に変化した。入れ物が変わっただけで中身は同じ。つまり、「Jポップとは何か」の問いに答えることは、「日本の音楽産業はどういうものか」に対する答えと同様となる。<P>したがって、本書の内容は「1990年代における日本の音楽産業の特徴および変遷」である。「Jポップとは何か」などという問いを立てる必要はなかった。
先に出版された『Jポップの心象風景』の姉妹編とみてよいが、どちらも傑作である。古臭い表現で申し訳ないが、前著がJポップの「上部構造(文化・宗教的な面)」をおもしろおかしく解釈した本であったのに対し、本書ではその「下部構造(社会・経済的な面)」が、ジャーナリズムの生命である豊富な取材に裏付けられながら、見事に分析されている。もっとも、書き方をちょっと固くすれば、Jポップをテーマにした現代社会学の力作、というのでも十分に通用する。すごい水準の高さである。<BR>しかも、なんともたのもしく感じてしまうのが、著者の音楽に対する価値観である。昨今の肥大化しすぎてしまったJポップ産業のパワーは、「人々の心に響くうたをつくろう」という理想の芽が育つのを、阻害しているのではないか、と著者は一音楽ファンとして、憂えているのである。こういう誠実な思い、共感することのできる業界関係者ができるだけ多くいてくれることを、ひとりのJポップ好きとして、願いたい。