日露戦争を中心に日本と世界との関係を物語った歴史書です。<BR> 日露戦争の勝利で中国、韓国の他にトルコ、ブルガリア、ポーランドなどが日本に注目したこと、<BR> 韓国併合の際、統治の形態をイギリス保護領下のエジプトに求めたこと、<BR> そして日露戦争後の内務省主導の言論風圧が大正デモクラシーにつながったことなど<BR> 歴史的事件が個別に存在するのでなく、世界的な連続を持った歴史を叙述しています。<BR> 日本の近代を日本一国の視点でのみとらえる昨今の落第的な歴史記述より<BR> はるかに刺激的だと断言できます。<P> さて、なによりも本書の目玉は思想の連鎖です。<BR> 社会主義、トルストイ思想、非戦論などの思想が世界的に広まり<BR> 多くの人々の植民地主義に対する抵抗の手段となった叙述が面白かったです。<BR> 山室氏はその中でも殺伐とした現在をみて平和の重要性を主張しています。<BR> 人類の世界的な不戦の意識は18世紀末に芽生え、19世紀の軍縮条約や不戦条約、<BR> そして日本国憲法第9条につながったことを指摘し、<BR> 更に「言辞としては陳腐、実行としては新鮮なる非戦」<BR> という中江兆民の言葉を引用し非戦の重要さを説いています。<BR> 戦争を知らない世代にとって考えなければならないことが盛りだくさんでした。
日清、日露の戦争の経過には殆どページを割かず、戦争にいたるまで、あるいは戦争後の民衆や政治、外交、軍部の事情などを述べている。これまでにはない視点で、明治の戦争を伝えてくれている。<BR>非戦論が随所にみられるのが気になったが、この時代を知るにはよい本だと思います。
日露戦争を起点に前後一世紀の日本近代史の因果関係を追う。 <BR> やや岩波的・左派的・進歩的な史観であり、つまりいわゆる日本とアジアの不幸な歴史と真摯に向き合うべきだという立場で、日露戦争を肯定的に評価する保守的な向きとは一線を画している。しかし日露戦争の勝利にアジアの人々が期待したという記述などは充実しておりバランスはとれている。<BR> いずれにしても近代日本史の分水嶺を日露戦争に求めている点は重要で、100周年の今年としては今日の目からも考えるべき点は多い。