ヨーロッパ哲学の巨大な体系は、その基礎にギリシアの思想とヘブライの信仰とを置く。これが、この本の核心的枠組みである。たいへんクリアであり、しかも的を射ている。西洋思想にこれから関わろうとする人であれば、まず最初に読んでおくといい一冊であろう。<P>もちろんこれは入門書であり、個々のトピックス・個々の思想家については軽くしか触れられていないが、それらがどこでどうつながっているのかといった見取り図が、通読した読み手には与えられる。それが本当に正しいかどうかは問題ではない。混沌として見える西洋思想の海、そこを環流している海流が、ここでは指し示されているのである。後は、それに乗ってそれぞれが航海に漕ぎ出し、自分なりの海図を作っていけばよいのである。<P>ちなみに、私の印象に最も残っているのは第2部「ヘブライ信仰」の末尾にあるパウロを扱った一節である。これはもちろんヨーロッパ思想に通じる道なのであろうが、私はここから鈴木大拙の『日本的霊性』を連想した。詳しく書く余裕はここではないが、大拙が欧米で受け入れられた理由は、もしかしたらこのあたりにあるのかも知れない。
宮崎哲弥氏が『諸君!』誌上の「今月の新書完全読破」という企画のなかで、いつか「今月のベスト」に選んでいた。宮崎氏も言うように、本書が「岩波ジュニア新書」として売り出されているというのは、ある意味もったいない。大学生が読んでもけっこう有益な本だと思う。<P> 200ページあまりの新書でヨーロッパ思想を包括的に(しかも「流れ」が分かるように)解説するわけだから、厳密で詳細な議論が紹介されているわけではない。しかし著者の要約力と説明力が素晴らしく、大雑把に記述している割に、納得させられてしまうのだ。<BR> もちろん、思想の内容に対するその「納得」が本物であるかどうかは怪しい。こんな要約を読んで思想を知った気になってはならない、古典そのものや専門書に当たらなければならないというのは当然だろう。しかし「広く浅い理解」を得るための導入書として、本書の出来映えは抜群なのではないだろうか。<BR> いわば思想方面の勉強を進めるうえでの良質のブックガイド。「読むべき思想書」の群れの全体像を与えてくれる。オススメ♪<P>(他のレビュアーの方もおっしゃるように、第3部をもう少し厚くして欲しかったとは思う。ルソーとか出てこないし……。あと、事項・人名索引を付けてほしかった。)
本書は、「内容のつまり方」からして、どこから見ても大人向けの内容です。<BR>・ソクラテスとイエスの思想上の共通点は何か(そしてどうして彼らは殺されなければならなかったか)<BR>・ユダヤ教とキリスト教の決定的な違いは何か<BR>・神がいるなら、なぜこの世の悪を放置するのか<BR>・デカルトの「我思う、ゆえに我あり」とはつまりどういう意味なのか<BR>・ニーチェはなぜ神を殺さなければならなかったのか<BR>等々、知ってそうで知らない、ヨーロッパの思想の「根っこ」のところを極めて明快に書いてくれています。<P>何度も参照できる本です。