前半は、早逝した一人目の奥さまとのエピソード。入院生活の長い奥さまが退屈しのぎに考え出すいたずらに、迷惑しつつも決してそれを悟らせず、逆に一緒に楽しんでしまおうとするあたりに、暖かいけど決して押しつけがましくないファインマンさんのお人柄が見てとれる。科学に造詣の深くない私にとって、科学からは若干離れたこの章は、本当に心に残る。<P>中盤は、前作に収めきれなかったユニークなエピソードがいくつか。そして後半は、スペースシャトル「チャレンジャー号」が1986年に空中で爆発した後、大統領事故調査委員会のメンバーとして、レーガン大統領のもと原因究明した顛末が描かれている。本音で生きてきたファインマンさんにとって、政治の都ワシントンでの腹蔵ある駆け引きは、苦労の多いものだったことだろう。最後の最後になって署名削除も辞さじとした科学者としての矜持と科学に対する情熱。ファインマンさんは、最後までファインマンさんだった。全体的に、前作「ご冗談でしょう、ファインマンさん」よりも、ファインマン像が鮮明に心に残るエッセイだった。
~ファインマンはノーベル賞受賞者である。でも、彼は学者らしからぬユーモアと「常識」の持ち主である。「ご冗談でしょう、ファインマンさん」はとても有名である。<BR>でも、この本の方がかなり面白い。<BR>~~<BR>特に面白いのが、この本の後半を占めるチャレンジャー事故の調査に関するところである。彼は、現場に足を運び、実際にネジを締めている作業員にまでインタビューを行い事故の原因となりうるポイントを探ってゆく。このプロセスがとても楽しめる。作業員と冗談を交わしたり、上手に話を振ったりしながら、重要なポイントや作業中の作業員の心の動き、さまざま~~なプレッシャーや気がゆるんでしまう実情などに迫ってゆく。事故調査のケーススタディとして読める内容になっている。責任追及は!回し、とにかく要因の列挙と現状分析という手順がそのまま文章としてつづられている。<BR>彼の講義や講演はとても面白くCDなども発売されている。きっと、同じ調子で現場の人たちを巻き込んだのだろう。<BR>~~<BR>さて、シャトルはまた落ちてしまった。ファインマンさんはもういない。彼がもし生きていたなら、どんなコメントをしただろうか。「ご冗談でしょ!」と返したくなるような、切れ味のよいコメントを発してくれたかもしれない。それとも、またタイルを貼っている作業員のところへ行って、いろんなことを聞き出してくれただろうか。~
科学に対するアプローチ,物事の考え方,生き方,すべてにわたって驚くことばかりだ.このようなセンスを持った人間は人生が楽しくて仕方がないのだろう. 学生をはじめ研究開発を志すものはもちろん,すべてのひとびとに読んでいただきたい.