県警本部幹部各々のキャラクターがありありと描かれ、心の機微が、手に取るように、伝わってきます。にもかかわらず、銘々が、憎めない存在として描かれているのは、人間の限界を知り、限界を享受し、その上で、生きていく人間像を描くことに、この作品でも筆者が真正面から挑んでいるからではないかと、思いをはせました。登場人物の共通項は、それそれ判断を誤りながらも、冷静にそれを受け止めて、あきらめずに、リカバリーを図ろうとする、たくましさではないか、その意味で、この作品でも、試行錯誤さえあれば進歩できるということを、主軸にしているように思います。勇気を与える書です。
作者得意の、警察官それぞれの立場での思惑や欲得を絡めながら展開して行く警察小説。今回はメインの事件が警察内部(それも上層部)で起こるため、そのドロドロ具合はこれまで以上のものがあります。群像形式に引っ張られて読み進めましたが、途中でやや胸焼け感あり。<BR>「踊る大捜査線」や作者の一連の小説により、警察という組織がいかに尋常でない論理のもとに成立しているかは、広く世間の知るところとなりました。事実、後をたたない警察官の不祥事報道は、それらの「フィクション」があながち全くの虚構ではないことを裏付けています。しかし、だから全ての警察官がおどろおどろしい人間である、とは決して言えないはずです。本書にも、警察官の古典的良心をとどめる(あるいは取り戻す)人物は出て来ますが、何にせよ大多数の登場人物がちょっと毒々しすぎるような気がします。今回の作品では、共感ではなく敵意、批判ではなく揶揄、をより強く感じました。最後にほんの小さな光明を演出してはありますが、どうにも救いがない読後感でした。<BR>作者のように影響力のある作家が警察組織をこのように取り上げ続けることで、果たして日本の警察は少しでもよくなるのか。むしろ、「どうせ警察官は…」という意識が社会を被い尽し、志願者は減り、組織の志気も地に堕ちる結果になりはしないか。(少なくとも今のところ、残念ながら後者の方向に進んでいるような気がしますよね。)日本人の一人としていささか不安になります。<BR>もう一つ。この物語と阪神大震災を同時進行させる意味はどこにあったのでしょう。震度0、震災の日を命日として手を合わせる、刻々と数を増し続けた犠牲者数の報道。あの大震災が、小説の単なる小道具として扱われたような印象がどうしても残り、そこも今一つ納得できませんでした。<BR>そうは言っても出れば読んでみたくなる作家です(こうやって出れば即買っているわけで…苦笑)。新境地を開拓されることを切望します。
警察の内部のキャリアとノンキャリアの人との対立や、それぞれの次期ポストへの思惑などが描かれていて、たぶん現実もこのようなものだろうな、と思いながら読みました。細かい描写で警察小説の作者ならではの作品です。<BR> ただ、「半落ち」、「第三の時効」などのイメージが強すぎるので、それらに比べてストーリー性が欠けている感じでした。横山秀夫さんの作品はどちらかというと短編の方が切れがあっておもしろいと私は思っています。