江戸を舞台にした怪談がメイン。<BR>どの話にも霊的要素がある。<BR>けれど夜中に一人でトイレに行けないとか言うような怖さではない。<BR>霊が出る、出ないよりも、それについて語る人間や、聞き手にまつわるエピソードのほうが怖いのだ。<BR>収録作「安達家の鬼」などは読んでる自分が怖くなる、というのは読み手(私自身)の脛に傷があるから?<P>なにより怖いのは「人」なのだ。<BR>怖いながらもいろいろ考えさせられる話が続々。<BR>だから宮部みゆきはやめられない。
小気味のいい時代劇怪談ショート。ショート。書きっぷりから、宮部さんって気風のいい姉御みたいな人なんだろうなあ、と思ってしまう。ずるさや怨念も含めて、作者は人間を肯定している。情念の世界での理屈が、実に良く描けている。もちろん、情景描写も鮮やかだ。江戸の町がすぐそこに広がっているような気がする。<P> 落語で「なあ熊公、ちょいと小耳に挟んだんだが…」と始まるように、自然にストーリーに引き込まれていく。<BR> 一話ごとにイラストつきの装丁も、文庫本としては画期的におしゃれ。私も一番怖い話は「布団部屋」かな。<BR> しかし宮部みゆき恐るべし。次々と名作・快作を生みだす。実は藤子不二男みたいに複数作家じゃないかとさえ疑いたくなる。
どの話も読んでいて背筋がゾクッとする。あからさまに幽霊などが<BR>出てくる話ばかりではない。だが怖い。「居眠り心中」「布団部屋」<BR>「女の首」では、人の怨念の怖ろしさを感じた。また、「梅の雨降る」<BR>「時雨鬼」では、心の中に潜む鬼の存在が怖ろしかった。どんな人でも<BR>人を怨むことはあるだろうし、心の中に鬼がいるのだろう。だが、それに<BR>負けてはいけない。人は、常に自分の心と戦っていかなくてはならないのだと<BR>思う。不思議で、怖くて、そしてちょっぴり切ない作品だった。