凄い凄い。ドカベンの世界を小説化したような魅力だけでなく、徹底的な少年の視点がいい。もどかしい気持ちを、大人の言葉で説明しない。中学生らしい精一杯の言葉で思考させ、しかもそれさえ口に出させずイキナリ胸ぐらをつかむ等の行動に走らせている。そうそう、少年時代ってこうだよね。これは確かに、作者あさのさんのライフワークと呼ぶにふさわしい緻密な力作である。<BR> 随所に描写される大人の身勝手さ。そしてそれらを沈黙させ、再考させていく巧の野球才能の圧倒的な非凡さ。サッカーの中田も、野球の松井も、中学生のときに既に特別だったらしいです。そのリアリティーからいけば、あきらかにその才能がわかるだけに、先輩は絶対に手を出さないらしいです。でも、先輩による闇討ち(2巻目)のシーンは、エンタテイメントのリアリティーとして、やはり必要でしょうね。読者の「そんなに彼だけうまくいくわけないじゃないか」という気持ちを納得させるために。<BR> 読んでいて熱くなる。大人専用に書くよりも難しい。中学生にも十全に共感できるように細心の注意を払って書き上げられている。
3年生の引き起こした事件により活動停止になっていた野球部。<BR>『巧』をはじめ、野球部の面々は部活ができない夏休みを不満を抱きながら過ごす。<BR>その処分も夏休み明けに解け、早々に「レギュラー」対「1・2年」の紅白戦をすることになる。全国大会ベスト4の中学と練習試合をするためのデモンストレーションとしてだ。<BR>『巧』と『豪』のバッテリーはその試合でレギュラーを圧倒する。<P>校長の主張する「学校活動としての部活と世間体」とか、<BR>野球部面々が主張する「好きだから野球をする」という意見とか、<BR>展西の「野球部の体育系体質への不満」とか、<BR>親、兄弟、先生、友達。<BR>他人のいろんな意見がぶつかり合うところが、野球の熱さとともに面白い。
中学生野球部の巧と豪、それを取り巻く人々を描いた物語。文庫版第3巻。<P>謹慎がようやく解けた野球部で、紅白試合が行われます。レギュラー揃いの紅組と、1年生の白組との対戦。<BR>この巻のほとんどがこの紅白試合なのですが、一つ一つのバッターボックスが臨場感溢れていてハラハラして、飽きません。<BR>野球のことは全く知らなかったのですが、それでもこのシリーズは楽しめます。<BR>今回は巧の弟、青波も活躍します。巧と野球部顧問オトムライとの確執(?)も深まり、これからお互いがどうなっていくのかも楽しみです。<P>ちなみに。この巻には文庫書き下ろしの短編も入っています。お得感もバッチリあります。