太平洋戦争中、軍に徴用された技術者の手記を素材に、日本軍、日本人の組織、日本人の行動の問題点を指摘した書である。日本軍の欠点としては、一例を挙げれば、科学を軽視し精神論を兵隊に押し付ける、そのくせ将校は専門知識を十分持たず、かつ、捕虜になると非常識・反秩序的行動をとるなど。<P> 日本軍あるいは、戦争の戦略の欠点を上げた書は他にも存在するが、本書の特徴は、こうした現象の根源にあるものを追求している点にある。それは日本における自由の問題である。本書が問いかけている問題は、現在でも解決されていない重要な問題である。
何故、日本は戦争に進んだのか、何故日本は勝てる見込みのない戦争の泥沼に足を踏み入れたのか?という問いは、戦後生まれの戦後日教組教育を受けた私の、ずっと思い続けてきたテーマです。昭和史(主として、政治や軍部)の本や、戦争体験の本、またその精神論など価値観についての本など、読んできたつもりでありましたが、何か、片方だけを美化してみたり、軍部(陸軍)=悪などの、現在での価値観から判断したものの見方に、之は少し違うのではという疑問を抱いて来ました。<P> 山本七平氏については、有名な「日本人とユダヤ人」「日本教について」などその書物が出た頃(20歳前後だった様に記憶)に興味深く読んだ覚えがあった程度で、まだ本人がご健在かどうかも知らずこの本を手にしました。一言で言えば、「先の疑問に答える本がやっと見つかった。」「戦争について正しく記述され、またそれぞれの行為に対する物の正しい見方が、やっと教えてもらえた。」というのが、本音です。山本七平氏が、フィリピン戦線の体験者であり、戦後の見方と戦中の見方の違い、もっと言えば、娑婆にいるときの見方と、軍隊内におる時の見方、ジャングル内での生死をさまよっている時の精神状態等々、今までに無い理解が出来たと言えます。また、日本軍が戦闘のために外地に赴いたのではなく、消耗し、餓死するために派遣されたのが実態である事が、はっきりしたと言えます。著書の中でも何度も、現在も同じたぐいの、錯覚や間違いをしているのではないかと問いかけられていますが、偏った見方が当たり前になることの恐ろしさを、常々自省して行かなければなりません。特に日本人は「日本の常識は世界の非常識」であることを忘れやすい人種であり、「みんながするから自分もする」という、自立した考え方の持てない民族であることを覚えておかなければならないでしょう。<P> この本のおかげで、山本七平氏の他の著作(特に戦争に関するもの)を、今興味深く読んでいます。私の世代は、父親が戦争体験者でありながら、本音の話はほとんど聞いていません。少しでも本当の部分を理解し、咀嚼し、次の世代に伝え、父親の言っていた「戦争だけはする物じゃ無い」事への、真の伝道者にならねばならないと考えています。
日本には、真に合理的な考え方を出来る人にとっては、全く理解に苦しむ「非合理な人々」が存在し、さらに驚きなのは、それらの非合理も、実は日本の近代史に照らし合わせれば「常識の範囲内」となり得るという恐ろしい事実を、実際の戦記を参照しながら「これでもか!」的に理解する本。「戦記」ベースではあるが、まさに「今日の日本企業に対する強烈な問題提起」にもなっており、合理的な人でも、その逆の人でも、互いに逆サイドの人々を理解するのに極めて有効な名書だと思った。「トヨタの奥田会長推奨」となっているが、それは多分、いまだに組織内に生き残る「その非合理性を常識の範囲内と自然に勘違いしてしまう(シニア?)層」に向けた推薦だと思われ、そのような人たちが1人でも多くこの書を読んで、いまだに日本企業内にはびこる「ワケのわからない精神論や全く理屈に合わない命令」が、少しでも早く消え去っていけば、未来の日本は明るいかもと思った。著者が得意とする「日本人論」や「人望論」にも触れており、その辺りの文化論としても多少勉強になる。今の日本人には何が足りないか?を理解するのに良い書なので、若者層にも是非読んで貰いたいお薦めの書である。