「夢つげ」といわれて、「夢占い」のことかと思ったがそうではない。占いを行う人=神官が夢を見て、占いをするもののようだ。時代設定は幕末、そして夢つげ。この設定で小説を書くのはかなり難しそうであるが、この小説は見事におもしろいストーリーを作り上げている。<P>主要キャラクターも魅力的だ。いかにも頼りなげな兄と、しっかりものの弟。兄をしょっちゅう叩いたりして見下しているのかと思ったら、兄を尊敬し、気遣い、兄を思うあまり涙を流す。その表現に、韓国ドラマのような「くささ」は見られない。<P>大金持ちの跡取り息子の捜索という内容でここまで面白くする手腕は見事なのだが、若干最後が蛇足になっているような気がする。幕末の世の流れを、ただの神官がひっくり返すという、おもしろそうなストーリーが始まるのかと思いきや、ほんの数十ページ後には登場人物達は諦めてしまっている。なんとも尻切れトンボだ。この部分を付け足すくらいならば、息子が見つかったところで打ち切った方が爽やかだ。
「夢告」という不思議な力。それは失せ物や人探し、はては予知にも使われる。弓月はその力を駆使して、難事を乗り切ろうとする。人から見るとうらやましい力かもしれない。しかし、その力を持つことが幸せなことなのか。人は、未来が見えないからこそ未来に希望を抱き、生きていくことができる。見えない方が幸せだということもある。最後に弓月が選んだ道は・・・?それが最善の道だと思った。一気読み♪
畠中恵さんの新作。若だんなシリーズとは別物だが”百万の手”の様な現代物ではなく時代劇。やはりこの方にはこちらの方があっているように思う。(現代物もまだ百万の手一作だから決めつけは出来ないけれど)。 若だんなシリーズとは異なり妖怪変化の類は出てこないが主人公で小さな神社の禰宜を務める川辺弓月には不思議な力が備わっている。タイトルからも想像できるかも知れないが”夢告”すなわち、夢によって未来を占うことが出来る。<BR> ことの発端はこの夢占いを行ってほしいというある大家からの依頼。大火でひとり息子を行方不明にしてしまってから約十年。今になって大火の時に拾ったコドモがそうではないかと一度に三人も名乗り出た。この三人の中から本当の息子をゆめつげで見てやってほしいというのがその依頼。しっかり者の弟を連れて弓月は三人の待つある神社に向かうのだが・・・。<BR> 幕末という激動の時代とその時代における神官という特殊な立場が絡んでやけに話が大きく展開していく。少々暴走気味かなと思わないこともなかったがその分展開が早く一気に読めた。若だんなシリーズのようなほのぼのとした感じではなく切った張ったのシーンでは”ちゃんと”死人も出るし、弓月はゆめつげを行うたびに血を吐く始末。といっても別にホラーやスプラッタではなくちょっとのんびりした性格の弓月を叱咤激励するしっかり者の弟との掛け合いはなかなか面白い。また、三人から本人を判定する手段としてある著名なミステリーと似たような手法が出てくるところは(話の本筋とは関係ないところなので)ご愛敬か。本作の終わり方だと次回作、シリーズ化を期待するのはちょっと難しいかも知れないが(といってもないとは言い切れない雰囲気)。弓月シリーズか若旦那シリーズかそれとも完全な新作か、次回作が早く読みたくなることには変わりなし。