「神聖ローマ帝国」と聞くと、どうしてもハプスブルグ家やドナウ帝国を連想してしまうのは小生だけではないと思います。しかしながら、帝国の歴史は遥か中世に遡り、ザクセン朝・ザリエリ朝・ホーヘンシュタウフェン朝など、幾多の王朝に亘る栄枯盛衰に彩られた中欧世界そのものの歩みでもあったのです。しかしながら、健全な中央権力の不在とそれに伴う政治的混乱は、帝国の実体を著しく捉えどころのないものとしており、その全体像や歴史的な意義を簡単に、かつ一般読書が興味を失わないよう面白く概説するのは、並大抵の仕業とは思えません。<BR> しかしながら本書は、こうした途方も無い企てにマンマと成功しているように見受けます。著者がもともと文学畑出身ということもあってか、本書は「読まれる」ことを意識した記述振りに徹しているように見受けられ、たいへん好感の持てる出来栄えです。<BR> 内容的には、「カノッサの屈辱」「大空位時代」「金印勅書」「アウグスブルグの和議」といったメジャーな出来事を骨太に紹介しつつ、その背景や意義について、詳し過ぎず端折り過ぎず、程好い塩梅で解説していきます。また、個人の活躍に着目するのか時代の大きな流れに重点を置くのかといった点でも理想的なバランスになっていると思います。<BR> ドイツ中世史はとかく取っ付き難いというイメージがありますが、本書はこの分野の入門に最適の優れものだと思います。
著者に乗せられた、というかみずから乗ったのだが、神聖ローマ帝国という名に引かれてこの書を手に取った。なんでドイツが「神聖」で、かつ「ローマ帝国」などと名のるんだという疑問。それを明らかにするためにこの書はある。とりあえず疑問の答えは得られる。しかし神聖ローマの名に神秘的なものを感じていたのだとすれば、神秘のベールがはずされた「帝国」の実態を知るにつれ、その観念は崩れていく。中世ヨーロッパの文化を知りたいという向きには、本書の、政治をベースに歴史を語るという趣向はちょっと肩透かしをくう感があるかもしれない。
中世ドイツを中心に中欧に広大な版図をもってはいたものの、世界史の教科書レベルの内容ではどこか掴みどころがなかった神聖ローマ帝国の成り立ちから消滅までをコンパクトにまとめた好著(実際は同帝国の名前の由来となる西ローマ帝国の滅亡時から記述されているのでもっと記述範囲は広い)。<P>ローマ法王を頂点とする教会勢力との絶え間ない確執・政争。一方で地域・都市を割拠する地方国家からなる連邦国家(もしくは分裂国家)としての成り立ち、配下の地方国家との複雑な力関係と権力委譲の経緯などなど、読みどころは満載。<P>新書ということで限られた文章に収めるため、権力闘争を中心とした記述になっており、軍事面や社会史・文化史的な観点での記述はおとされている。が、その分、内容が把握しやすい。文章もこの手の本にありがちな紋切り型の読みにくさはない。巻末やカバーには参考図書、関連図書の紹介もあり親切。